働けなくなった時におりる保険は欲しいけれど・・・
「もし病気やケガで働けなくなったら、住宅ローンはどうなる? 生活費は?」
そんな不安から、テレビCMやネット広告でよく目にする「就業不能保険」を検討する人が増えています。
しかし、実は大きな落とし穴があります。
一般の人がイメージする「働けない状態(=体調が悪くて会社に行けない)」と、保険会社が定義する「就業不能(=給付金を支払う状態)」には、非常に大きな乖離があるのです。
この記事では、保険会社各社の約款に隠された厳しい「就業不能定義」を徹底解剖していきます。
多くの人が誤解している「就業不能」の定義
まず結論から言えば、
「うつ病で会社を休職した」「腰痛でデスクワークがつらい」「交通事故のむち打ちで仕事に行けない」程度では、就業不能保険は1円も支払われません。
実際に人気のあるネット系保険会社の定義を見てみましょう。
【比較表】就業不能保険 3社の定義と特徴
主要なネット系会社の定義を比較・整理しました。
基本的には、
①入院中
②在宅療養中
③障害等級1級・2級の場合
これらのケースに該当した月は、毎月保険金を受け取ることができます。健康状態が回復し、上記3つの状態から脱した場合は、保険の給付は止まります。
各社の「就業不能」定義比較表
就業不能保険を販売している保険会社を各社比較してみました。
(就業不能保険という名前ではないけれど、実質的に類似した保障内容の特約を販売している保険会社は他にも多数あります。)
| A生命 | B生命 | C生命 | |
| 主な条件 | ①入院 ②在宅療養 ③障害等級1・2級 | ①入院 ②在宅療養 | ①高度障害 ②障害等級1・2級 ③所定の身体障害状態 |
| 在宅療養の ハードル | 標準的 医師の指示があり、治療に専念している状態 | 厳しい 医師の指示があり、かつ「軽労働や座業もできない」状態 | 対象外 主に障害認定ベースのため、在宅療養のみでは対象外 |
| 精神疾患の 保障 | 一時金のみ 所定の状態になったら一時金給付 ※月額給付は対象外 | 選択可 全疾病型なら対象 ※通算18回などの回数制限あり | 一部対象外 精神障害による等級認定は1級のみ |
| 免責期間 | 60日 | 60日 | なし |
保険がおりる条件は入院中であるか、在宅療養であるか、重い障害を負ったか、どれかです。このうち、在宅療養を誤解しやすいと思います。
「在宅療養」の定義
在宅療養をそのままの言葉の意味で考えると、「仕事を休んで家で休んでいる状態」と受け取りがちですが、実は全く異なります。
保険における「在宅療養」の定義を一言で言うと、「自宅が病院のベッド代わりになっている状態」です。
単に「体調が悪いから家で休んでいる」だけでは認定されません。
以下の3つが揃っている必要があります。
- 医師が「入院相当だが、事情があって自宅で治療する」と診断書に書く
- 治療に専念している
- 外出ができない
絶対条件として、医師の管理下で自宅で治療をしていることです。
免責期間にも注意
給付の条件に該当していたとしても、その状態が一定の日数を継続しないと実際に支払われません。それが免責期間です。60日から180日に設定されていることが多いです。
つまり、入院61日目から、在宅療養状態も61日目からの保障だということです。
各社の詳細分析
B生命:「軽労働不可」の壁
B生命は保険料の安さが魅力ですが、約款の定義は業界トップクラスの厳しさです。在宅療養の定義に「梱包・検品などの軽労働や、事務等の座業もできない」という条件が含まれています。
A生命:精神疾患は「一時金」のみ
A生命は、「精神疾患で長期間の月額給付」を行いません。その代わり、所定の状態になれば「一時金」を払って契約終了、という割り切った設計です。
「うつ病で1年半休職し、その間ずっと給付金をもらいたい」というニーズには応えられません。
C生命:「働けない」ではなく「障害が残った」保険
C生命の商品は、他社と性質が異なります。「病気で休んでいる」ことへの保障ではなく、「障害等級認定」や「所定の身体障害(不慮の事故による切断や失明など)」に対する補償です。
短期的な療養には使えませんが、人生を左右するような重い障害への備えとしては強力です。ただし、精神障害に関しては「1級(寝たきりに近い状態)」のみが対象で、2級が対象外である点に注意が必要です。
重い障害のうち、身障者手帳1級であれば、多くの場合生命保険の「高度障害保険金」の対象となり、死亡保障と同額の保険金がおりてきます。わざわざ就業不能保険である必要は薄いかも。
就業不能保険は必要なのか?
ここまで見たきたとおり、就業不能保険の保障内容は、一般消費者がイメージするものとかなり異なるではないでしょうか。
就業不能保険は決して悪いものではなく、条件に該当したら確実に保険金を受け取れる保険です。
しかし限られた家計の中で、決して優先して入るべき保険ではないなというのが筆者の感想です。
実は就業不能保険に入らなくても、公的保障と通常の医療保険と死亡保険の組み合わせで十分に就労不能状態に備えることができます。
公的制度(障害年金・傷病手当金)を知る
まず、会社員であれば健康保険から「傷病手当金」が出ます。最長1年6ヶ月、給与の約3分の2が補償されます。これは就業不能保険よりもはるかに認定基準が緩やか(医師の労務不能意見があればOK)です。
さらに、1年6ヶ月を超えても障害が残る場合は「障害年金」を受け取る可能性が出てきます。障害年金の認定にはハードルがありますが、精神疾患でも身体障害でも、どちらでも給付されます。
- 障害基礎年金(1・2級): 国民全員が対象。
- 障害厚生年金(1・2・3級): 会社員なら、より軽い障害(3級)でも年金が出ます。
「就業不能保険」を検討する前に、まずは自分が公的制度でいくら貰えるかを確認しましょう。不足する分を生命保険でカバーすればいいのです。
住宅ローンには団信がある
「働けなくなったら住宅ローンが払えない」という不安に対しては、就業不能保険で現金を確保して支払うよりも、「団体信用生命保険(団信)」の保障拡充で対応するのが優先です。
近年の団信は進化しています。
- がん団信: がんと診断されただけでローン残高がゼロ。
- 全疾病保障団信: いかなる病気・ケガでも、就業不能状態が12ヶ月続けばローン残高がゼロ。
- 月次返済保障: 働けない期間の「毎月のローン返済」を肩代わりしてくれる機能。
「ローンがなくなる」という効果は、月額10万円の就業不能給付金をもらうよりも、大きな保障になります。
ただし、就業不能タイプの団信は金利の上乗せがあります。
医療保険の特約でも準備可能
就業不能保険がなくても、医療保険に「特約」をつけるだけで十分なケースもあります。
- 三大疾病一時金特約: がん・心疾患・脳血管疾患になったら年に1回100万円など。がんは診断されたら、心疾患と脳血管疾患は入院を1日以上するか手術をするだけで出るため、「就業不能状態か否か」という面倒な認定争いが起きません。
- 治療給付金特約: 抗がん剤治療などを受けり入院した場合に月に10万円など一定額を給付。働ける・働けないに関わらず「治療の実態」ベースで支払われるため確実性が高いです。
「生活サポート特約」や「高度障害保険金」
最近では注目すべき特約があります。
「生活サポート特約」
医療保険に付加できるタイプのもので、障害等級3級以上に該当したら設定した保険期間の満了時まで確実に毎年給付金を受け取れます。就業不能保険のように「復職したら終わり」ではありません。
収入保障保険(死亡保険)の「高度障害保険金」
「収入保障保険」は通常、死亡した際に遺族に月額金を払うものですが、「高度障害状態(両目失明、下肢や上肢の機能全廃など)」になった場合も、死亡時と同様に満額支払われます。障害等級の1級に相当するため、家族に残すための死亡保障が、自分の就業不能状態にも備えることができるのです。
「完全に身体の機能を失って働けない」という最悪のケースは、実は死亡保険ですでにカバーされていることが多いのです。
























