人生ハードモードでも家を買うことはできるのか?
住宅専門FPの長岡です。
今回は少し特殊なテーマでお話しします。
テーマは・・・
「刑務所から出所した人は、住宅ローンを組んでマイホームを建てることができるのか?」です。
なぜ突然そのようなテーマなのかと不思議に思う人も多いでしょう。「私は犯罪者じゃないし関係ない」と考え、このページを閉じる前に、ちょっと聞いてください。
このテーマには実は普遍的な学びが隠れているのです。
それは、ライフプランニングにおいてハードモードに陥った場合、どのように普通の人生へとリハビリしていくのか?という学びです。
誰しも、不遇・理不尽な立場に追いやられるリスクを抱えています。たとえば、自己破産や任意整理など金融事故が起きたり、勤務先がブラックで上司の感情だけで懲戒解雇されてしまったり、痴漢冤罪に遭ったり、ドロ沼離婚となったりするなど、困難な状況に陥ったら、どのようにしたら立ち直れるのでしょうか。
そのひとつが、過去の過ちによる懲役です。
犯罪者の境遇なんて自己責任だろうと、浅い一般論で語るのは簡単です。しかし、人生はそう簡単ではありません。筆者自身は犯罪歴はありませんが、お金でひどい境遇に陥ったことがあります。どんな時に、いかに早く「普通の人生」に戻るかは、極めて専門的な知識が必要です。
「普通の人生」という言い方をすると、ムキになって「普通なんて基準は存在しない!」と食って掛かって来る人が大勢いますが、ムキになる人ほど自覚があるでしょう。自分が疎外感を感じるほどの「隣の家の芝生」のことです。少なくとも、疎外感を感じないほどの当たり前の生活のことを「普通の生活」と筆者は呼んでいます。人生ハードモードの人は全員、それに憧れているはずです。
筆者もそうでした。
この記事は、ハードモードに陥った方が社会復帰を果たし、家族のためにマイホームを持つために、今できる「金融的リハビリテーション」の解説をします。
簡単に言うと、地獄の状況からどうやって元の生活に戻れるのか、です。
現在「カードローンが少しある」「転職したばかり」「過去に支払いを遅れたことがある」といった理由で住宅ローン審査に不安を抱えている一般の方にとっても、銀行が本当は何を見て審査をしているのかを知るための非常に有益な読み物になるはずです。
日本の金融システムと住宅ローンの審査基準の裏側を正しく理解し、適切な手順を踏めば、家を持つことは決して不可能なことではありません。
この記事では刑務所から出所した人のマイホーム取得ノウハウを書いていますが、ご自身の何かに置き換えてお読みください。
「一般の犯罪」と「反社会的勢力」で審査の壁は全く違う
刑務所に服役していた人が出所した場合、住宅ローンは借りられるのでしょうか。
まず大前提として知っておくべきなのは、金融機関は「一般の人が起こしてしまった事件による服役」と「反社会的勢力(暴力団など)としての服役」を、全く別の次元の問題として扱っているということです。
結論から言うと、「一般の犯罪による前科がある」という事実そのものが、直接的に住宅ローン審査の否決理由になる仕組みはありません。
住宅ローンの事前審査や本審査の申込書には、「過去に犯罪歴はありますか?」というチェック項目は存在しません。また、銀行の保証会社が警察のデータベースにアクセスして、一般市民の前科を直接調べるような権限も持っていません。
ただし、重大な事件(凶悪犯罪や政治家への贈収賄事件など)などでネット上や過去の新聞などに実名報道の記録が残っている場合、銀行のデータベースに引っかかり、総合的な判断として理由を告げられずに落とされるリスクはあります。
一般の出所者の場合、審査における本当の壁は「過去の過ち」そのものではなく、服役していたことによって生じる「スーパーホワイト問題」と「勤続年数のリセット」にあります。
「スーパーホワイト」の問題
服役中、当然ですがクレジットカードを使ったり、新たにローンを組んだりすることはできません。数年間にわたり、金融機関との取引が一切途絶えることになります。
実は、これが住宅ローン審査において致命的なダメージとなります。
銀行は審査の際、必ず「個人信用情報機関(CICやJICCなど)」のデータを照会します。ここには、あなたが過去にローンを毎月きちんと支払ってきたかという履歴(クレジットヒストリー)が記録されています。
おおよそ5年以上長期間服役していた人の信用情報は、この履歴が完全に消え去り、真っ白な状態になります。これを金融業界の用語で「スーパーホワイト」と呼びます。
スーパーホワイトというと聞こえがいいですが、金融業界ではほぼブラックと同じ意味合いを持っています。
30代や40代で信用情報がスーパーホワイトだと、銀行の審査担当者は強く警戒します。まっとうな社会生活を送ってこなかった人物ではないか、とか、本当はブラックだが養子縁組などをとして身分を隠しているのではないか、という疑念を持ちます。または社会生活を送る能力が欠けているのではないかとさえ見るのです。
社会人として収入を得て生活している以上、クレジットカードを持って、自動車ローンやショッピングローンなどを一度は組んだことがあるはずというのが金融機関から見た「普通の社会人」像なのです。
「人生で一度も借金をしたことがないんです!」と自慢する人も稀にいますが、金融上は全く自慢になりません。そういう人は「借金=悪いこと」という刷り込みがあり、「借金をしたことがない→偉い→銀行が高く評価する」と思い込みがちですが、実際は全く違います。
スーパーホワイトは要注意人物なのです。住宅ローンなどの高額な融資では、高確率で審査に落ちます。
特に家を買う時には高いハードルとなります。当社の相談会でも、スーパーホワイト問題で住宅ローンの審査に躓く人が、毎年数名いるのが現実です。
【対策】クレジットヒストリー構築する
出所後、まずは「自分はきちんとお金を返せる人間だ」という信用を構築する必要があります。
スマホの端末を分割払いで購入したり、審査に通りやすいクレジットカードを作ったりして、毎月遅れることなく支払いを続ける実績を作ります。
これを1〜2年続けることで、クレジットヒストリーが構築され、銀行からの信頼を得ることができます。大切なのは、数年以上の長期にわたって、遅れなく返済を続ける管理能力があるということを証明することです。
証明するのは収入額だけでは足りません。返済を毎月できる「能力」の証明が必要です。
「え?わざわざ必要のない借金をしろということ?」と驚くかもしれませんが、結論から言えば、その通りです。
意味のない買い物をする必要はありませんが、借金(クレジットカードやショッピングローン)の返済をわざとしてみせる必要があります。現金で払っていたガソリンや光熱費をクレジットカード払いに変更するだけでもOKです。
クレジットヒストリーは、海外では日本以上に重要になっています。
たとえば中国では、個人の信用がポイントとして数値化されています。社会信用体系やジーマ信用などいくつか仕組みがあり、クレジットヒストリーを積み上げることでポイントが上がり、賃貸住宅の敷金が不要になったり、病院の受診で優先して呼ばれるなどのメリットがあるようです。
日本はそこまでではありませんが、クレジットヒストリーがスーパーホワイトだと、住宅ローンの審査では締め出されてしまうのです。
元・反社会的勢力の場合はどうする
一方で、同じ出所者でも、過去に暴力団などの「反社会的勢力」に属していた場合は、話が全く変わります。
すべての金融機関は「反社会的勢力とは一切の取引を行わない」という厳格なルール(反社条項)を持っています。現在も所属している場合は、住宅ローンはおろか、給与振込用の普通の銀行口座を作ることすらできません。銀行は警察庁のデータベースと接続されたシステムで、厳密な反社チェックを行っています。
これは日本国の基本的人権に反しているのではという懸念もさかんに議論されています。
では、組織から離脱し、刑期を終えて会社員として働いている「元・組員」ならすぐにローンが組めるのでしょうか? 残念ながら答えは「NO」です。
金融業界や不動産業界には「元暴5年条項(暴力団排除条例に基づく規定)」という極めて厳しいルールが存在します。 これは、「組織を離脱してから(縁を切ってから)完全に5年間が経過するまでは、法律上『反社会的勢力』と同じ扱いをする」というものです。
この5年間は、銀行口座の開設も、アパートを借りることも、当然住宅ローンを組むことも事実上不可能です。
子供がいる場合でも、給食費の支払いが口座振替できません。ホテルに宿泊できないため家族旅行もできません。不自由な生活を強制されていると、組織に戻った方が楽となるため、この条項の実効性への疑問も盛んに指摘されているのが現実です。それ以前に人権の問題があるのですが。
現状、この制度なので、なんとか乗り越えるしかありません。
「5年」を耐え抜くと、スタートに立てる
元・反社会的勢力の方がマイホームを持つには、組織を正式に離脱し(警察や暴追センターに離脱届等を提出し証明できる状態にする)、そこから「完全にクリーンな状態で5年間の歳月を過ごすこと」が絶対条件となります。
5年が経過すれば、金融機関のシステム上でも契約が可能になり、そこから初めて住宅ローン審査のスタートラインに立つことができます。
一般の出所者と違うのはこの「5年間」です。
勤続年数のリセットを乗り越える
服役していたため、これまでの職歴は一度リセットされ、勤続年数はゼロからのスタートになります。
住宅ローンの審査において、銀行が最も重視するのは「将来にわたって安定した継続収入があるか」という点です。それは勤続年数で判断されます。
民間金融機関では、最低でも勤続1年以上、できれば3年以上の正社員であることを審査の土俵に上がる条件としています。アルバイトや日雇いの仕事では、いくら手取りが多くても民間金融機関の審査には通りません。
【対策】正社員での勤続と、フラット35の活用
まずは社会保険に加入できる正社員として就職し、働き続けることが最大の対策です。
また、民間銀行の審査が厳しい場合でも、住宅金融支援機構の「フラット35」であれば、転職から半年程度でも審査をしてくれるケースがあり、パートやアルバイトでも審査に通る可能性があります。
ただし、スーパーホワイト問題も同時に抱えている場合は、1年~2年程度、クレジットカードの利用履歴を積み上げてから住宅ローンの審査をした方がいいでしょう。
刺青(タトゥー)と団信の問題
民間銀行で住宅ローンを組む場合、万が一の際にローンの残債がゼロになる「団体信用生命保険(団信)」への加入が必須となります。
ここで、出所者が直面する、意外な壁があります。
それが「刺青(タトゥー)」です。
団信は生命保険会社と提携した生命保険の一種です。多くの生命保険会社では刺青(ファッションタトゥー含む)に厳しい規定があり、多くは保険に加入できません。隠して加入できたとしても保険金は支払われません。
団信の場合は、保険会社の営業担当者が直接契約に関わらないため、刺青=すべてNGという一括の扱いになりがちです。
「刺青はあるけど黙って入れたけど?」という方もいるでしょう。その場合、万が一の場合に保険金は下りず、住宅ローンはゼロ円になりません。その団信は無効であり、詐欺罪に問われる可能性があります。発覚する前に正規の手順で住宅ローンを借り換えしなければなりません。
団信に落ちれば、連動して銀行の住宅ローンも否決されます。
また、告知書で虚偽の申告(刺青はないと嘘をつく)をしてローンを通しても、万が一死亡した際に医師の死亡診断等で発覚すれば、保険金は一円も支払われず、残された家族に莫大な借金だけが残る最悪の事態になります。
【対策】刺青がある場合の選択肢
刺青がある場合、民間銀行の「団信必須」の住宅ローンを通すのは非常に困難です。現実的な解決策としては、フラット35の利用です。フラット35は、団信への加入が「任意(加入しなくてもローンが組める)」です。
これなら刺青を理由にローン自体を否決されることはありません。ただし、万が一の備えは自分で別の生命保険を探す必要があります。
団信ではない通常の生命保険の場合、刺青のガラと目的、血液検査によっては加入できる可能性もあります。たとえばファッションタトゥーのワンポイントだけであれば、血液検査次第でOKという扱いがあります。ただし、面積の大きい和彫りや特定の団体名や個人名が掘ってある場合は、血液検査がOKでも引受不可の扱いとなることが多いです。
生命保険会社のコンプライアンス担当者が直接面談し、刺青を見て、ヒアリングをして判断されます。
保険会社の営業担当者に経験がないことが多いため、「大丈夫ですよ」という安易な回答には注意してください。保険金の請求時に支払われずトラブルになります。
まとめ 出所からマイホーム購入まで
ここまで解説した通り、刑務所から出所した方が家を建てるためには、以下のような地道なロードマップが必要になります。
- 勤続: 正社員として就職し、社会保険に加入する。
- クレジットヒストリーを構築: スマホの分割払いなどで、真っ白になった信用情報に「遅れずに支払った」という実績を積む。
- 住宅ローン選び: 勤続年数や刺青の有無などを考慮し、フラット35などを戦略的に選択する。生命保険会社を探す。
自己破産経験者の場合は、10~15年経過してからのチャレンジとなりますが、借り入れられる可能性はゼロではありません。
誰でも、あきらめる必要は全くない
「昔、自己破産をしたことがある」
「車のローンやリボ払いが残っている」
「転職してまだ半年しか経っていない」
「過去にうっかり引き落としに遅れたことがある」
「自営業で、節税のために利益を少なく申告している」
「生活が落ち着き家が欲しいが、50歳を超えている」
といった、住宅購入でマイナス要素を抱えている方は多いはずです。
しかしあきらめる必要はありません。
これらの問題は、私たちのような現場を知り尽くした住宅ローン専門のFPが介入し、適切な銀行選びや、審査を通すための準備を整えることで、解決できるケースがほとんどです。
自己破産を経験していても、時間が解決します。少しの遅れであっても同じです。
一番よくないのは、問題を解決せず先延ばししていることです。先延ばししていても、いつまでも家を買うことは不可能です。滞納している借金を返済しないままでは年十年たっても家を買うことは無理なのです。
問題を解決する努力をしているなら、ネット上の断片的な情報や、住宅メーカーの営業マンの言葉だけで「自分はローンが通らないかも…」と諦める必要は全くありません。
























