急激に悪化していく日本社会・・・住宅の価値観も変わる
日本では多くの人が、戸建て住宅を一生に一度の大きな買い物であり、大切な「資産」だと考えてきました。
その常識が今、大きく揺らいでいます。
特に地方においては、深刻化する人口減少などによって、将来、戸建て住宅の資産価値がほとんど期待できなくなると予想されています。4,500万円もの住宅を購入しても、わずか数年後に売却するときには二束三文・・・しかも買い手がほとんど見つからない・・・もう既にそのような状態が一部の地域で起きつつあるのです。
「家は住処だから資産価値なんか関係ないよ」と考える人もいるでしょう。
たしかに、父親、祖父、曾祖父の時代から、一度家を建てると一生そこに住み続けるのがこれまでの常識、価値観でした。売却することはないのだから、資産価値なんかゼロでも構わない、と考えていたものです。
でもそれは、良くも悪くも伝統的な日本社会が維持されていた時代の話でしょう。広い敷地、大きな家に三世代が住み、家父長的家制度が残っていて、親の介護は長男の妻が担い、親の財産を長男が優先的に相続する・・・そのような社会が明治時代以降長く続いてきたため、住宅への価値観がこの100年以上変わっていないのです。
日本社会は急激に変わろうとしています。
人口の急激な減少、消滅可能性自治体の増加、外国人労働者の増加、在留外国人の増加、経済格差の拡大、凶悪犯罪の増加、生涯未婚率の増加・・・かつての日本社会には存在しなかった問題が増えているのは誰もがご存じでしょう。
29歳のときに購入した自宅が、40歳のときに周辺環境が「スラム化」したらどうなるでしょうか。分譲地だった近隣の多くが破綻によって賃貸物件に変わり、低所得者や、一戸に数十人で暮らす外国人労働者だらけに変わったら、どう感じるでしょうか。違法薬物用の注射器が道路に落ちていたり、夜にコンビニに行くことすらできない一画になったとしたら?
「日本の田舎でそんなことになるわけない」「漫画かよ」などと本当に言い切れるでしょうか。日本社会がかつてのように成長していないのはご存じのはず。行き詰まった若者が闇バイトで強盗に走り、高齢者を殴り殺すような時代です。
日本社会の変化とともに、住宅への価値観が変わろうとしています。この記事では今後の住宅の買い方、選び方を解説していきます。
地方の戸建ての売却価格は、もう期待できない
かつて「土地神話」に支えられ、不動産は価値が下がりにくい資産とされてきました。しかし、バブル崩壊以降、神話は崩壊。特に人口減少が著しい地方においては、戸建ての資産価値を維持することが極めて困難になっています。
その理由とは何でしょうか。いくつか挙げていきます。
「人口減少」と「超高齢社会」
日本の総人口は2008年をピークに減少に転じており、その傾向は今後さらに加速すると予測されています。国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口(令和5年推計)」によると、日本の総人口は2056年には1億人を下回り、2070年には8,700万人程度になると見られています。
特に深刻なのが地方です。 東京圏への一極集中は依然として続いており、多くの地方都市では若者世代の流出と、それに伴う出生数の減少、そして高齢化が急速に進んでいます。人が減れば、当然ながら住宅の需要も減少します。
| 年 | 総人口(中位推計) | 65歳以上人口割合 |
| 2020年 | 1億2615万人 | 28.6% |
| 2040年 | 1億1092万人 | 34.8% |
| 2070年 | 8700万人 | 38.7% |
このデータから予想できるのは、買い手となる若い世代が減り、家を手放したいと考える高齢者世代が増加するという、需要と供給の圧倒的なミスマッチの未来です。
中古住宅のストックが増えていく一方で買える人がいない。そうなると住宅の売却価格は低下する一方でしょう。
増え続ける「空き家」の影響
人口減少と並行して深刻化するのが、空き家問題です。
地方に住んでいる方であれば、徒歩5分圏内で複数棟の空き家を見つけることができるはずです。
総務省統計局が5年ごとに実施している「住宅・土地統計調査」の2023年調査(速報値)によると、全国の空き家数は過去最多の900万戸となり、総住宅数に占める空き家率は13.8%に達しました。需要が減る一方で、市場に「空き家」という名の中古物件が溢れかえる。そうなれば、価格競争が激化するのは必然です。
やはりここでも住宅の売却価格は低下していきます。
新築住宅が高騰し高所得者しか買えないものになった現在、中古住宅+リノベーションという選択肢が広がりつつあります。そうなると、当然中古市場は価格競争に入っていきます。新築の住宅ローン残債をチャラにできるような価格では売れないと思った方がいいでしょう。
2010年前後にローコスト住宅を購入した世帯の破綻
厳しい話をすると、2010年前後に流行した超ローコスト住宅を購入した低所得世帯は、今後の金利上昇によって家計破綻をする可能性が高いです。
筆者が当時を思い出すと、世帯年収340万円で、2,800万円のフルローンを借りて家を買うような人たちは珍しくありませんでした。子供は3人、残価設定ローンの高級ミニバンも買い、生命保険は県民共済だけ、妻はなぜか扶養の範囲内にこだわっている・・・そんな地方にありがちな低所得世帯は、今後の物価上昇と金利上昇に耐えらず破綻へと向かいます。
自己破産または任意売却となることが考えられ、これが中古住宅市場を活況化させるはずです。不動産投資家の間では「低所得者の破綻待ち」という仕入れチャンスが到来しているのです。
中古住宅市場には大量の物件が流れ、価格競争が起きはじめています。よほど良い立地やブランド感のある建物でない限りは、二束三文で買いたたかれる時代となるでしょう。
これからの家の持ち方~2つの出口戦略
住宅に対する価値観を変えていかざるをえません。
海外の投資マネーが流入して価格が高騰し、安定のリセールバリューを見せる東京都心のマンションでもない限り、地方の戸建て住宅は多くの場合「売却価値はゼロに近い」と受け入れるしかなくなります。
そこでこれから家を買う時には、ふたつの出口戦略を検討する必要があります。
出口戦略とは、言い換えれば、どのような将来像で家を買おうとするのか、ということです。
戦略A「終の棲家」として利用する(解体費用の用意は必須)
従来通りの価値観で行くというスタンスです。
売却価値は一切考えず、「自分たちがこの家でいかに快適に、豊かに、人生の最後まで暮らすか」という「利用価値」に振り切る考え方です。
この場合、立地や性能は自分たちの満足度が判断基準となります。将来売却しない覚悟があるなら、趣味に特化した大胆なリノベーションを施すなど、どこまでも自由に自分たちの理想の城を追求できるでしょう。
しかし、趣味性を追求しすぎると、子供世代に迷惑がかかるかもしれません。
例えば、防音性を高めた音楽スタジオ、某芸能人の自宅を真似た巨大なガレージ、カフェ風に改造した延床70坪の古民家、コンクリートを床に打った筋トレ部屋、プライバシーのない巨大空間の間取り、など、極端に趣味性を高めた家は、住んでいる本人にとっては最高の空間でも、子供世代が相続した途端に迷惑な「負の遺産」と化すのです。
あまりに個性的すぎる家は買い手も借り手も見つけるのはほぼ不可能で、元の状態に戻すには多額の費用がかかるからです。結果として、子供たちは誰も住まない家の固定資産税を払い続けるか、数百万円の解体費用を負担するかの厳しい選択を迫られます。解体しても買い手がつかない土地であれば固定資産税が高くなってしまうため、結局は空き家で放置して朽ちるだけとなってしまうかもしれません。
また、親が価格を重視して購入した郊外の立地は、いずれ限界集落と化します。現時点で不便な郊外の土地は、今後は過疎化するだけで、高度成長期のように街並みが拡大することは二度とありません。近所の空き家に野生動物が住み着いていて怖い、などという悩みを抱える家を子供に残したら、迷惑そのものです。
子供のライフプランを崩壊させかねません。
「終の棲家」と覚悟を決めるのであれば、将来子供たちに負担を押し付けないよう、家を処分するための解体費用を残しておく必要があります。それは生命保険でもいいし、現金でもいいでしょう。解体さえできたら、子供世代は土地を国庫に返納して終わりにできます。
解体せず子供や孫が欲しいと言ってくれるような、いい立地と標準的な間取りの建物であればいいでしょう。
戦略B 将来の売却を見据え、資産性を維持する
「将来的には家を売却し、その資金で老人ホームに移りたい」という考え方も、現実的な出口戦略の一つです。
ただし地方の戸建ての売却は期待できない、という大前提は変わりません。しかし価値をゼロにしないための努力は可能です。その鍵こそが、次の章で解説する「価値が残る立地と、標準的で性能の高い家を選ぶこと」に他なりません。
良い立地で、多くの人が住みたいと思う間取りと性能を持つ家は、たとえ築年数が古くなっても一定の需要が見込めます。大きな小学校の近隣である、駅やバス停が近い、スーパーや病院などが近い、治安が良い、地方でも大きな都市の中心部である・・・などの条件が揃っていれば、人口が減少していても一定の需要を維持できるでしょう。
購入時より当然価格は下がるとしても、数百万円でもすぐに現金化できれば、次のライフステージへの大きな助けとなります。
将来の選択肢を少しでも多く残しておきたいと考えるなら、購入時からこの「換金できる可能性」を意識した物件選びが極めて重要になります。
価値がゼロにならないために。未来を見据えた物件選び
「どうせ価値が下がるなら、とにかく安い物件を」と考えるのは早計です。安易な選択は、将来的に修繕費や維持費がかさみ、最終的に売ることも貸すこともできず解体費用だけが残る「負動産」を掴むことに繋がりかねません。最後に、価値の目減りを最小限に抑え、将来の選択肢を残すための、物件選びの考え方をご紹介します。
価値が落ちにくい「立地」を徹底的に見極める
建物の価値が時間と共に減少する一方、土地の価値は立地条件によって大きく左右されます。人口減少時代において価値が残りやすいのは、「多くの人が住みたい、住み続けたいと思う利便性の高い場所」です。
- 自治体の「立地適正化計画」を確認する 自治体が将来にわたってインフラを維持していくエリア(居住誘導区域)内かを確認します。
- 地方中核都市の「中心市街地」に近い 商業施設や医療機関が集約された、需要が底堅いエリアです。
- 主要駅から徒歩圏内 公共交通の利便性が高い場所は、価値が維持されやすい傾向にあります。
「今安いから」という理由だけで、これらの条件から外れた郊外の物件を選ぶと、将来インフラサービスの低下やコミュニティの衰退に直面し、価値が完全に失われるリスクが高まります。
地方都市に「スラム」が形成されるかもしれない
1980年代以前のアメリカでは、郊外に開発された住宅地から、より裕福な層がさらに新しい郊外へと流出する「ホワイト・フライト」と呼ばれる現象が起こりました。結果として、残された住宅地は価値が暴落し、低所得者層や移民が流入。コミュニティが大きく変容し、一部はスラム化するという問題が発生しました。
この流れは、形を変えて現代の日本でも起こる可能性が強くあります。
特に、郊外に開発されたローコスト住宅の分譲地は注意が必要です。初期の購入者層が家計破綻し手放したり、返済に行き詰まり賃貸に出したりすることで、分譲地が次第に荒れていきます。
そこに、安価な住居を求める外国人労働者や移民の人達、日本人の貧困層に家を貸すオーナーや不動産業者が現れ・・・従来の価値観とは違う価値観を持つコミュニティが形成されると、周辺住民は早い段階で家を売ろって引っ越そうと動き始めます。
今の日本では想像しづらいかもしれませんが、それがきっかけで治安の悪い「スラム」が形成されてしまいます。治安の悪さから自宅は売れず、遺棄してしまう人も現れるかもしれません。アメリカのようにそこに見知らぬ人が無断で住み付き、さらに居住権を法的に主張されてしまうという事態が日本でも起こりえます。
地方のベテランの地主の中には、ローコスト住宅メーカーには売らないというポリシーの方も大勢います。いずれその土地が荒廃していく、と言うのです。何が起こるのか、よく分かっていらっしゃるのでしょう。
安いというだけで郊外の分譲地に飛びつくことは絶対に避けてください。
誰にでも受け入れられる「標準的な間取り」を選ぶ
独創的すぎる間取りは、将来の買い手を限定してしまいます。市場での流動性を保つためには、3LDK~4LDKといった、ファミリー層に最も需要のある標準的な間取りの物件を選ぶのが賢明です。
建物のメンテナンス記録が残っていること
これは中古自動車でも同じでしょう。
メンテナンスの履歴がはっきり残っていることで、売却価値を多少上げることは可能です。
屋根外壁の塗り替え時期とその費用、設備の交換履歴などが明確に証拠として残しておく必要があります。
そのためにも長期優良住宅を選択するのも一つの方法です。長期優良住宅の認定を維持してきた住宅を売却するとき、メンテナンス記録は「いつ、どのようなメンテナンスを適切に行ってきたか」を証明する客観的な証拠となります。これにより、建物の価値が正しく評価され、一般的な中古住宅に比べて有利な条件で売却できる可能性が高まります。購入希望者にとっても、安心して購入できる大きな判断材料となります。
まとめ
地方の戸建てを取り巻く未来は、資産価値、売却価値という点では厳しい条件であるのが現実です。人口減少と空き家の増加により、「マイホーム=資産」という方程式は過去のものとなり、安易に選んだ物件は容易に「負動産」と化します。さらに、立地選択を誤れば、かつてのアメリカの都市のように、コミュニティそのものが意図しない形に変容していくリスクさえあります。
大切なのは、立地、そして住宅性能であることに変わりはありません。そして家を買う前に、住宅の「出口」をどのように考えていくのか、FPに相談しておくことをお勧めします。





























