歴史は繰り返す「現代版ネットワークビジネス」とは
「スマホひとつで月収30万」「育児の合間に在宅ワークで自立」
InstagramやX(旧Twitter)を開けば、そんな魅力的な言葉とともに、カフェでパソコンを広げる自由な主婦たちの投稿が目に飛び込んできます。
自分の人生に何か暗く影を落としているような、不満とは言えないけれど、モヤモヤしてものを吹き飛ばしてくれるような甘い響きです。そして何よりもお洒落でかっこいい。
自分もそうなりたいと、安易に考え飛びついてしまう主婦が後を絶ちません。
しかし、その実態は、現代版ネットワークビジネスと言えるようなものです。いま40代50代の人の目には、「ああ、懐かしい光景だな」と気づくはずです。
1990年代、主婦や若者が「人生を変える」などというキラキラ成功願望をこじらせて飛びついた、ネットワークビジネスの構図と同じだからです。
歴史は繰り返すようです。
この記事では、多くの主婦が陥りがちな副業の罠を、解説していきます。なぜこれが「1990年代に社会問題となったマルチ商法」の焼き直しに過ぎないのか、その正体を暴きます。
「在宅起業で月30万円」という勧誘とその虚構
なぜ「30万円」なのか?
SNSに掃いて捨てるほど出てくる「月30万円の副業」という表現。あれ、なぜ30万円なのでしょうか。
「月5万円」では生活は劇的には変わらない。
「月100万円」では現実味がない。
その中間にある「月30万円」という数字は、一般的な会社員の初任給を上回り、一馬力で家計を支えられる可能性を感じさせる絶妙なラインです。
もしかしたら、夫と離婚することになっても子供を養っていける、現実的な収入に思えるかもしれません。自由になるお金がほとんどない専業主婦にとっては、人生が一変するような金額にも思えるでしょう。
しかし、ビジネス社会のごく普通の感覚からいえば、特別なスキルがない専業主婦やパート主婦が、「起業」をし、短期間で月30万円の利益(売上ではなく)を出すことは基本的に夢物語です。
甘いとしか言えません。
キラキラSNSから始まる“設計された導線”
副業系情報商材は、ほとんどがInstagramを基点にしています。
Instagramで見るキラキラなライフスタイルと、憧れる主婦たち
Instagramに投稿される「高級ホテルのランチ」「ブランド品」「高級車」「子供との余裕ある時間」「夫からの自立」「自信にあふれた女性の人生」「憧れのライフスタイル」・・・
それは見込み客を引き寄せるために、プロの指導のもとで演出された「広告素材」です。
彼女たちは「今の私はこんなに幸せ。でも、以前はあなたと同じように悩んでいた」というストーリーを語ります。
これに共感した主婦たちは、「憧れのロールモデル」として憧れ、信じ込んでしまうのです。
共感しやすいのは、もともと成功願望を持っている主婦や、経済的に不自由を感じている専業主婦が大半です。成功願望は持っているけれど、自分でビジネスを創造する能力はなく、学歴も人脈もない、資金もない、会社員経験は結婚前まで、でも、キラキラしたものには憧れが強い、そんな女性です。
「あなたの夢は何?」から始まる自己啓発的な勧誘行為
SNSの目的は、DMやプロフィールから「公式LINE」へ登録させることにあります。
LINEへ誘導された後は、ステップ配信と呼ばれる毎日の自動メッセージで徐々にマインドセット(価値観の書き換え)が行われます。
最終段階は、Zoomなどによる「無料コンサル」です。
そこには理想的な大人の美女が映っています。
「あなたの夢は?」「お金を稼いで人生を変えることにどうしてブロックがかかっているの?」などと自己啓発じみた問答を繰り返すのが特徴です。
そして最終的に数十万円の「起業講座」や「コンサル契約」へとクロージングしていきます。
中高年世代の方には見覚えがあるでしょう。
公民館などで行われる「ミーティング」、友人が胡散臭い人間を連れて来て始まる「スポンサリング」、「毎日自由な生活なのでボクは毎日サーフィンばかりしているよ」などとライフスタイルを自慢する自称成功者。
かつてファミレスや公民館で行われていたネットワークビジネスの勧誘が、オンライン場所を変えただけなのです。
そのあとはもうご存じでしょう。
その「夢」と「仲間」に依存して、ビジネスと称して自分のお金と人間関係を消費していく地獄です。キラキラしているつもりで全く経済的に豊かになれないあの地獄です。
副業の中身よりも重要な「情報商材」
商材は「入り口」に過ぎない
彼女たちが掲げる「副業の中身」は、実は何でもいいのです。
物販、占い、ハンドメイド、SNS運用代行、スピリチュアル、健康食品、FP……
これらの商材はすべて、高額な「講座」や「コンサル」を売るためのフック(引っ掛かり)に過ぎません。
これ自体はほとんど稼げません。SNS投稿を一生懸命やってDMで健康食品を売ったり、SNS運用代行を受注しようと頑張りますが、利益に繋がらないでしょう。
本質は、スキルを売って稼ぐのではなく、「稼ぎ方を教えるという名目の情報」を売る情報商材ビジネスです。
情報商材を買ったあとにも、コンサルと称して次々とアップセル(追加販売)されていくのです。そして本質は、売り方を教える側、つまりダウンラインを作ることです。
主婦向けの情報商材の現実
2010年代に一部の主婦に流行した副業をご存じでしょうか。
中国から激安のアパレルや雑貨を輸入し、Amazonや楽天で売って儲けようという商売です。
正直なところ、安いだけで品質もデザインも最低レベルのものを仕入れ、ほとんどがろくに売れず在庫に苦しみました。
そのビジネスを教えるという情報商材を買って、そこにどんどんのめり込んで依存する主婦が多発したのです。
そのビジネスで儲けたのは、情報商材を売った「ボス」と慕われる人達だけです。ボスたちは子分たちの個人輸入からも中抜きしていましたが、気づく人はほんとなく。
オンラインが今のように普及していなかった時代で、主婦たちはセミナーにいつも参加し、自己啓発じみた煽りを真に受けて、人生を変えたい!夫と離婚したい!私らしい人生にしたい!と夢を見て、売れもしない激安バッグや激安スニーカーを仕入れて、Amazonで2,980円などで出品したものです。
これが現在の副業ブームに続く手法でしょう。
ビジネス経験が乏しい主婦が、慣れない物販やウェブデザインで月数万円を稼ごうと四苦八苦する一方で、その情報商材を販売して数十万を徴収する運営側だけが、ノーリスクで安定した利益を得る構造になっています。
実は物販をするのではなく、情報商材を売る側に立ったほうが儲かると気づいた人が、ボスの下で「ダウンライン」として暗躍するようになります。
仲間の成功を手伝うという美しい大義名分を信じて。
1990年代のネットワークビジネスと何が同じなのか
この構造は新しい働き方などではなく、1990年代に全盛期を迎えた「アムウェイ」「ニュースキン」などのネットワークビジネス(MLM)と、極めて似通っています。
驚くほど似ている
- 紹介による拡大: 自分が商品を売るだけではなく、ビジネスに勧誘することが利益を出す仕組み作りになる
- 上位への利益集中: ピラミッドの上層部にいる人間ほど、現場の苦労なしに吸い上げる
- コミュニティによる結束: 孤独な主婦を「仲間」として受け入れ、居場所と承認欲求を満たす
- 成功者ごっこ: 実際には稼げていない人でも「稼げているフリ」をさせ、見込み客に憧れさせる
かつては「洗剤、化粧品、サプリメント」という形のあるモノが介在していました。ネットワークビジネス企業はれっきとしたメーカーであったためです。
しかし現在はそれが占いやハンドメイド、SNS運用といった、もはやメーカーとしての企業が存在しない形になっています。
原価がほぼゼロの情報商材の方が、運営側にとっては旧来のネットワークビジネスよりもはるかに利益率が高いという、より悪質な進化を遂げています。
ネットワークビジネスよりも厄介なのは、企業ではなく個人(もしくは小規模法人)だという点です。ネットワークビジネス企業は、少なくとも世界的に見たら大企業です。当然ながらコンプライアンスへの取り組みもあります。違反行為をした会員へのペナルティも存在します。
情報商材を売る側は、何もかもが実体の薄い小規模な法人に過ぎません。社長などと自称しているため、社会経験のない主婦はそれだけで信じ込んでしまうのです。
講座・コンサル・コミュニティで完成する収益構造
なぜ受講者が「販売者」へと変貌するのか
高額な講座料(30万〜100万円)を支払った受講者は、ほどなくして「自分で稼ぐことの難しさ」に直面します。
そこでボスが提示するのが、「あなたがこの講座を販売すれば、売上の◯%をバックする」という提案です。
「自分が学んで変われた体験を伝えるだけ。それが誰かのためになる」という大義名分を与えられ、受講者は昨日まで自分と同じ立場で悩んでいた別の人を勧誘し始めます。
こうして、顧客が次の営業マンになることで、ビジネスは自己増殖していくのです。
ネットワークビジネスでいうところのダウンラインを構築するのです。それを「コンサル」するのが、「ボス」という名のアップラインです。
勧誘側に変貌した主婦は自分のダウンラインを集めてはZOOMでミーティング(ほとんどは再現性のない自己啓発)を夜な夜な行うようになるのです。
キラキラ投稿は「集客業務」
彼女たちが必死にキラキラした投稿を続けるのは、それが「集客のための必須業務」だからです。
「この講座を買えば、あなたも私のようになれる」という証拠を見せ続けなければ、新しいターゲットを捕まえることができません。突然厚化粧をはじめ、アプリで加工を繰り返し、キラキラ主婦を演じ始めます。
主婦が欲しくても手に入らないもの、例えば収入をはじめ、自由、子供の教育、マイホーム、そして愛とか不倫というものまで。とにかく主婦のコンプレックスや不安、ルサンチマンまで、刺して抉り続ける投稿を続けるのです。
もし投稿がバズれば、数百件ものDMが押し寄せたりもします。それに必死で返信する者の、さほど売上にもならず・・・。
SNS上の笑顔の裏で、彼女たちは常に「次は誰を勧誘するか」という数字のプレッシャーに追われています。
ほとんど利益は残せません。
所詮はビジネスごっこなので当然です。すごいのは主婦たちの囲い込みに成功したピラミッドのトップの人間だけ。
コミュニティの「囲い込み」と人間関係の分断
「その人とは距離を置け」という隔離の手法
副業コミュニティに深く入り込むと、次第に周囲との関係に歪みが生じます。
友人が「それ、怪しいんじゃない?」と正論を言うと、主婦はすぐにボスに相談を始めます。
ボスやアップラインはこう助言するでしょう。
「その人はドリームキラー(夢を壊す人)だよ。アンチはあなたの成功を邪魔しているだけ。あなたとは価値観が違う。ネガティブに染まらないようにすぐ離れて。ステージが変われば、付き合う人も変わるもの」
客観的な意見をくれる、まっとうな人間関係を切り捨てるように助言され、本人もその気になって実行してしまう。
コミュニティ内だけの偏った価値観に染まっていく。人間関係が壊れていくほど、コミュニティに依存していく・・・
これは1990年代のネットワークビジネスで多くの家庭が崩壊した際に見られた、全く同じ手法です。家族や友人が何を助言しても、「アンチ」「ネガティブ」の一言で片づけられ、自己破産するまで(自己破産しても)続いていったのです。
ビジネスと自称している割に、極めて幼稚で安っぽい行動をするのが特徴です。
これを辞めたら、キラキラを夢見る自分を失ってしまう・・・それが怖くて、しがみついてしまうわけです。

謎の選民意識まで
このように、思考をコントロールされてしまった主婦は、なぜか他人に対して「自分は優れた人間だ」「自分は本質を理解している」「自分は気づいてしまった」などと、謎の選民意識を持ちます。
何も成功していないのに、ただそのグループに所属しているだけで、自分は特別だと勘違いしてしまうのです。
その仕事、ちょっとどうなの?と家族や友人が言うと、「ふーん、まだ気づいていないのね」などと上から目線で答えるのが特徴です。
これもネットワークビジネスではよくあること。一度味わった非日常を手放したくなくなるだけなのです。過去の自分にコンプレックスを抱えているだけに、戻りたくないという思いも強いでしょう。
もっと悲惨なケースでは、男のボスと不倫までしているケースさえあります・・・。
そのビジネスで家は買えない
情報商材を買ってその気になった主婦たちが、住宅を買おうとする様子をFPとしてたくさん見てきました。
まだ稼いでもいない妻が、「将来は年収600万円になるので、それで家を買うライフプランを作ってください」と言うのです。言っておきますが、現時点では所得ゼロです。情報商材や経費を使っているので実態はマイナスで、夫のお金をつぎ込んでいるだけ。夫も妻の商売が何が問題かすら理解していません。
夢物語で住宅ローンは返済できないのです。
自営業者が住宅ローンを借りるためには、銀行に収入が安定して継続するというエビデンスを提示する必要がありますが、お話しにならない状態でしょう。
その情報商材ビジネスはあっという間に廃れます。
中国からの輸入ビジネスでも、最後は洗脳されたお仲間にボスのお仲間が生命保険や投資を売ったり、高額情報商材のお代わりを勧誘されたりと、ひどい状態になり崩壊しました・・・。
筆者も2010年代に、保険のお客様が情報商材にはまっていたことがありました。ボスの仲間がボスの子分に生命保険を勧誘し、契約するとその利益がボスに入るという、違法行為をしていたらしいです。ボスが私のお客様に「今の保険は良くないもので、あなたは長岡という人間から騙されている」などと吹聴したようで、お客さまから謎のクレームをもらったことがありました・・・。お客様はもう理屈が通じないマインドコントロール状態でした。当然、そのビジネスは崩壊したそうですが・・・
副業、起業をするなら、情報商材は不要
現在のSNSを席巻している副業ブームの正体は、働き方の多様化ではありません。
「成功願望をこじらせる主婦をターゲットにした、高額情報商材」です。
その根底にあるのは、1990年代のネットワークビジネスから一歩も進歩していない、人を踏み台にする構造なのです。
もし本当に副業や起業をするとしたら、情報商材は不要です。自分で真剣に商売のネタを考え、仕組みを作り、1人で取り組むだけでいいはずです。仕組みを考えるところに生みの苦しみがあり、それを広げる営業に血のにじむ苦労があるはずです。
そしてコンサルを頼むとすると超高額であり、あなたの夢を無条件で後押ししてくれる優しいボスではなく、冷酷でドライなビジネスマンです。
それをしたくない、できない、もっと楽にキラキラしたいというのであれば、もう副業や起業など向いていないのは自覚すべきです。本当にビジネスの才能と努力があるのなら、あなたはとっくに何らかのビジネスを自分で始め、軌道に乗せて収入を得ているはずなのです。
楽をしてキラキラしたいという、自分の見栄を利用されないようにしたいものです。
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弁護士事務所
一番確実で早いのは、情報商材被害に特化した弁護士事務所に相談することです。
Googleで検索すると専門の知識を持った事務所が多数見つかります。こちらはほんの一例です。
こちらのホームページには情報商材の被害について詳しく書かれています。弁護士費用は決して安くはありませんが、返金させることで毅然とした態度を詐欺師に示すことができます。二度とあなたに近づくことがないでしょう。
筆者からのアドバイス
こうしたビジネスの「ボス」は、「外部に相談すること」を極端に嫌います。
「相談したら成功から遠ざかる」「価値観が違う人と関わらないで」
などという言葉は、あなたを孤立させるための洗脳です。
第三者の冷静な目を受け入れることが、あなたが目を覚ますための第一歩です。
詐欺まがいの仕事しかできない人間は確実に存在します。他人をコントロールして快感を覚え、自分が大物になったようにふるまうのです。
憧れのボスかもしれませんが、あなたの耳障りのいい言葉を繰り返して、あなたの思考を奪っている人間ではないか、よく考えてみてください。

























