地震で梁に亀裂が・・・
大きな地震のあと、天井の近くや吹き抜けにある梁(はり)にひび割れを見つけると、家が傾いたり崩れたりしないか不安になると思います。
梁は建物を支える重要な骨組みです。被害の程度によっては、保険で一番重い「全損(全壊)」と判定されることもあります。
しかし、実際に被害に遭った方の多くが「全損と認められたのに、建て直しや修理にかかるお金が全然足りない」という現実に直面します。
また、「手続きが面倒だから請求しなくてもいいか」「すぐ直す気がないなら、もらわずに放置しても問題ないのか」という疑問や、近年の火災保険でよく聞く「直さないと保険金が出ない決まり(復旧義務)」が地震保険にもあるのか、といった点でも混乱が起きがちです。
この記事では、地震で梁が割れたときに使える保険、全損でも全額は出ない仕組み、火災保険と地震保険の決まりの違い、そして請求せず直さずに放置した場合のリスクについて、分かりやすく解説します。
なぜ梁の割れは危ないのか
住宅の柱や壁、床などの中でも、法律(建築基準法施行令)では建物の重さや地震の揺れを支える部分を「主要構造部」と呼んでいます。
梁が果たしている役目
梁は、柱と柱の間に横向きに渡されている部材です。
- 上からの重さを支える:2階の床、家具、住んでいる人、屋根の重さを下から支え、その重さを縦の「柱」へと逃がします。
- 横からの揺れに耐える:地震の横揺れや台風の強い風を受けたとき、柱と一緒に踏ん張って、家全体がねじれたり倒れたりするのを防ぎます。
梁の種類
- 大梁(おおばり):柱と柱を直接つないでいる一番大事な梁です。ここに亀裂が入ると、家を支える力が大きく落ちます。
- 小梁(こばり):大梁と大梁の間をつなぎ、床の重さを大梁へ伝える梁です。柱には直接くっついていませんが、床が落ちないように支えています。
様子見でいい割れと、危険な割れの違い
梁の割れには、それほど心配いらないものと、すぐに直さないと危ないものがあります。
木が乾いてできた割れ(比較的安全)
無垢材(一本の木から切り出した木材)によくあります。部屋の中で木が乾くにつれて、木の筋(木目)に沿って縦に割れが入る現象です。芯まで真っ二つに割れていなければ、家を支える力にはあまり影響しません。
表面の壁紙の割れ(構造には問題ない)
梁が石膏ボードや壁紙で覆われている場合、地震の揺れで表面の壁紙やボードの継ぎ目が破れただけで、中の木や鉄骨は無事ということもあります。
地震の力で割れたもの(とても危険)
地震の強い力で、木目を直角や斜めに断ち切るように割れているもの、柱との継ぎ目が引き裂かれているもの、コンクリートの梁に斜めに深く入ったひび割れなどは危険です。梁が重さを支えられなくなっているため、本震より小さい余震でも耐えきれず、一気に折れて上から床や屋根が落ちてくる恐れがあります。
地震で梁が割れたときに使える保険は「地震保険」だけ
火災保険に入っていても、通常の火災保険では地震による梁のひび割れは直せません。
火災保険のルールでは、「地震や噴火、津波が原因の損害(それらによる火事や建物の倒壊などすべて)には保険金を出さない」と決められているからです。
そのため、地震の揺れで梁が割れたときに使えるのは、火災保険とセットで入る「地震保険」だけになります。
梁は調査の対象になる
地震保険の被害調査では、壁紙やフローリング、お風呂やキッチンなどの被害は見ません。見てもらえるのは、建物を支える以下の部分だけです。
- 柱
- 梁
- 外壁
- 基礎(土台のコンクリート)
- 屋根
梁は家を支える大切な部材なので、梁そのものに入った亀裂や割れは、損害の割合を計算するときにしっかりカウントされます。
なぜ「全損」になっても全額はもらえないのか?
「梁がひどく割れて、保険会社から全損の判定をもらった。これで家を元通りに直せる」と思っていたのに、実際の振込額を見て足りなさに驚くケースがよくあります。
これには、地震保険ならではの3つの理由があります。
理由①:契約できる金額が、火災保険の「半分まで」と決まっている
地震保険は、国と民間の保険会社が共同で運営している公的な保険です。巨大地震が起きて被害が途方もない金額になっても保険制度がつぶれないよう、法律によって掛けられる金額の上限が厳しく決められています。
- 契約できる金額:火災保険の金額の30%から50%まで
- 金額の上限:建物は5,000万円まで、家財は1,000万円まで
たとえば、家を新築して「建て直すのに3,000万円かかる」として火災保険を3,000万円で設定していても、地震保険は最大でその半分の「1,500万円」までしか入れません。
つまり、最初から「被害の全額は保険では出ない」仕組みになっています。
理由②:修理の見積もり実費ではなく、「4段階の定額」で払われる
台風で屋根の瓦が飛んだときなどの火災保険は、工務店が作った「修理の見積書」の金額をもとに、修理にかかるお金が実費で出ます。
しかし地震保険は、実費払いではありません。
大地震のときは何十万軒もの家が被害を受けるため、一人ひとりの修理代を細かく計算していると、お金を届けるのに何ヶ月もかかってしまいます。そのため、建物の時価に対する損害の割合によって、以下の4段階のどれかに当てはめて決まった割合を支払う仕組みになっています。
- 全損(損害の割合が50%以上):地震保険の金額の100%
- 大半損(損害の割合が40%以上50%未満):地震保険の金額の60%
- 小半損(損害の割合が20%以上40%未満):地震保険の金額の30%
- 一部損(損害の割合が3%以上20%未満):地震保険の金額の5%
※損害の割合が3%未満と判定された場合は、保険金は0円です。
理由③:地震保険は「生活を立て直すためのお金」だから
火災保険は「壊れた家を元通りに直すためのお金」を出す保険です。
それに対して、法律で決められている地震保険の目的は「被災した人が生活を立て直すのを助けること」です。
家をもう一度新築そっくりに建てるためのお金ではなく、避難生活を送るための費用や、仮住まいの家賃、当面の生活費として使ってもらうことを前提に作られているため、満額が出ない仕組みになっています。
余談ですが、火災保険は復旧義務といって、実際に修理をしなければ保険金は支払われません。一方、火災保険は生活再建の保険であるため、修理をしなくても保険金を受け取れます。
実際にいくらもらえるのか
梁が割れて調査を受けた場合、実際の手取り額がどうなるかを計算してみます。
条件の例
- 家を建て直す費用(火災保険の金額):3,000万円
- 地震保険の金額(最大の50%で加入):1,500万円
ケース1:梁や柱がひどく壊れて「全損」になった場合
- もらえる割合:地震保険の金額の100%
- もらえる金額:1,500万円
全損と判定されたので、入っていた地震保険の満額である1,500万円が出ます。しかし、もとの3,000万円の家を同じように建て直そうとすると、1,500万円足りません。足りない分は、貯金を崩すか、別のローンを組んで工面する必要があります。
ケース2:梁に亀裂が入り「一部損」になった場合
- もらえる割合:地震保険の金額の5%
- もらえる金額:75万円(1,500万円の5%)
梁に亀裂が入った場合、表面の傷を埋めるだけでは直りません。下から油圧ジャッキで梁を持ち上げて歪みを戻し、鉄板や補強シートを取り付ける大がかりな工事が必要になり、100万円から300万円以上かかることも珍しくありません。
しかし、判定が「一部損」にとどまると、もらえるお金は75万円だけです。工事費用には遠く及ばず、持ち出しの自己負担が大きくなります。
「直さないとお金が出ない決まり(復旧義務)」の違い
最近の保険で気をつけたいのが、「復旧義務(実際に修理工事をしないと保険金を出さない決まり)」です。
火災保険と地震保険では、この決まりが全く違います。
火災保険:今の契約のほとんどに復旧義務がある
大手損害保険各社は、2022年10月の改定から、個人向けの火災保険に「復旧義務」を入れました。
「火災保険を使えば無料で屋根が直せる」「工事をキャンセルすれば保険金の現金をそのままもらえる」と言って勧誘する、「火災保険請求コンサルタント」とかいう悪徳業者とのトラブルが急増したためです。
保険金をもらうには、損害が起きてから原則2年以内に実際に建物を直すことが条件です。工事の見積書や領収書だけでなく、「修理が終わった後の写真」を保険会社に出さないとお金が出ません。直さない場合は、保険金をもらえなかったり、すでに受け取っていても返金を求められたりします。
地震保険は、直さなくてもお金はもらえる(復旧義務はない)
火災保険とは違い、地震保険には「実際に直さなければならない」という決まりはありません。
修理後の写真は出す必要はありません。調査員が見に来て被害が認定されれば、そのあとに「工事の領収書を見せてください」「直した写真を出してください」と言われることはありません。
使い道は自由です。地震保険は生活を立て直すための保険なので、梁の修理に使ってもいいですし、引っ越し費用や当面の生活費、将来の建て替えのために貯金しておくことも認められています。
ただし住宅ローンを返済中の場合は注意
地震保険に復旧義務がないといっても、住宅ローンを払っている最中の家は注意が必要です。
銀行は建物に担保(抵当権)をつけています。建物が壊れて保険金が出るとき、銀行はその保険金を差し押さえてローンの繰り上げ返済に充てさせる権利を持っています。そのため、銀行から「保険金はローンの返済に充てるか、家の価値を保つために修理に使ってください」と指定され、生活費などには自由に使えないことがあります。
保険をもらわず修理もしないで「放置」するリスク
「手続きが面倒だから」「一部損で数十万円しかもらえないなら放っておこう」と、保険を請求せず、梁の亀裂も直さずに放置すること自体は自由です。誰からも罰せられません。
しかし、梁の割れをそのままにしておくことには、家の安全性とお金の両面で大きなリスクがあります。
リスク①:3年経つと時効になり、1円ももらえなくなる
保険の請求権は、法律(保険法)によって「事故が起きた日の翌日から3年」で時効になり、消滅します。
あとから「やっぱり隙間風が入るから直したい」「だんだん亀裂が広がってきた」と思って保険会社に連絡しても、3年を過ぎていれば保険金は一切受け取れません。
リスク②:次の災害のときに、保険金を減らされたり出なくなったりする
これが実務で一番もめる原因になります。
梁の亀裂をそのままにして何年か過ごし、また別の地震や大型台風に遭って家が傷んだとします。そのとき保険会社の調査員が来ると、割れ目の汚れ具合や劣化の様子を詳しく調べます。
いつ壊れたのか証明できない危険があります。「今回の地震で割れたのか、何年も前の地震のときにできた割れなのか」が見分けられなくなります。
過去の分を差し引かれる可能性もあります。
調査員から「この梁の割れは、今回の災害より前からあった古い傷(未修理の損害)」とみなされると、今回の保険金からその分を大きく差し引かれます。最悪の場合、「前の傷を直さずに放置していたせいで壊れた」と判断され、保険金の支払いを丸ごと断られることもあります。
これは自動車保険でも同じことが言えます。車両保険に入っていないからといって傷を放置して錆が浮き、翌年車両保険に入ったら、傷の部分をぶつけて大破した場合、「傷を直していればこんなに壊れなかった」と言われ支払いを減額されることもあります。
リスク③:家が傾き、次の余震でいきなり折れる
梁は天井や2階の重みを常に支えています。割れた梁を放置すると、以下のような問題が順番に起きていきます。
家が傾く
梁が支えられなくなった重みが、まわりの柱や壁に無理にかかります。その結果、家全体が少しずつ歪み、ドアや引き戸が開かなくなったり、床が斜めになったりします。
雨漏りとシロアリ
家が歪むと壁や窓のまわりに隙間ができ、雨水が中に入り込みます。水で湿った梁や柱には白アリがついたり、木が腐ったりします。
そしていきなり折れる
強度が落ちた梁は、震度3や4くらいの小さな余震や、台風の強風でも耐えきれなくなります。ある日突然ボキリと折れ、2階の床や屋根が落ちてくる危険があります。
リスク④:「復旧義務がない」利点を捨ててしまう
先ほど説明したとおり、火災保険とは違って、地震保険は「修理工事をしなくてもお金が受け取れる」保険です。
「今は大がかりな修理をするお金がない」「大工さんがつかまらない」という場合でも、まずは請求して保険金を受け取っておくべきです。お金を手元に置いておけば、とりあえず突っ張り棒などの仮設の補強だけをしておき、残りを将来の修理費用として残しておくことができます。請求しないまま放置するのは、もらえるはずの権利をただ捨てているのと同じです。
梁に亀裂を見つけたときの正しい対処手順
梁のひび割れを見つけたら、慌てずに次の順番で対応を進めてください。
安全の確保
何よりも身の安全が先です。
割れた梁の真下や、その真上にある2階の部屋には重い家具を置かず、人が入らないようにします。
建てたハウスメーカーや工務店、建築士にすぐ連絡し、家を見てもらいます。梁が折れそうな場合は、天井と床の間に金属製の突っ張り支柱(サポート)を入れて、余震で落ちてこないように応急処置をしてもらいます。
現状の写真を撮る
部屋を片付けたり応急処置をしたりする前に、被害の様子をスマホなどで写真に撮っておきます。写真が残っていないと、あとで保険会社に被害を証明するのが難しくなります。
次のような写真を撮っておきましょう。
部屋のどの場所にある梁なのか、柱や壁との位置関係がわかる引きの写真。
梁のどこがどう割れているのかがわかる写真。
亀裂のすき間の幅や長さがわかるように、定規やメジャーをあてた状態のアップ写真。
保険会社に連絡する
安全の確認と写真撮影ができたら、加入している保険会社に電話します。
「地震で建物の梁にひび割れが入ったので、調査に来てほしい」と伝えます。
後日、保険会社から委託された鑑定人が家を見に来て、梁だけでなく基礎や外壁、柱なども含めて家全体の被害状況を調査し、損害の割合を計算します。
もし調査の前に工務店から補修費用の見積書や「構造上危ない」という診断書をもらえていれば、鑑定人が来たときに見せると話がスムーズに進みます。
まとめ
地震で梁が割れたときに使えるのは「地震保険」です。梁は建物を支える大事な骨組みなので調査の対象になります。
ただし、どれだけ被害が大きくても「全損で火災保険の最大50%までしか出ない」「修理代の実費ではなく、決まった割合でしか出ない」という仕組みになっているため、保険金だけで家を新築同様に直すことはできません。
一方で、今の火災保険本体とは違い、地震保険には「実際に修理しなければお金が出ない」という復旧義務はありません。
「面倒だから」と放置すると、3年で時効になってお金がもらえなくなるだけでなく、次に災害が起きたときに保険金を減らされたり、余震で梁が折れて家が崩れたりする危険があります。
梁のひび割れを見つけたら放置せず、まずは危ない場所から離れて安全を確保し、写真を撮って早めに保険会社へ連絡してください。
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