住宅購入のFP相談を日々受けていると、太陽光発電を当然のように考えている世帯が増えているのを感じます。
「なぜ太陽光発電が必要と考えたのですか?」と質問すると、答えは簡単です。
「住宅営業マンの説明を聞いていて、必要だと思いました。」
世界一の豪雪都市、青森市でさえそのようなことを言うのです。12月から3月までの半年弱も分厚い雪に閉ざされる街でさえ。私も青森県出身ですが、冬の間は青空が滅多に見えなくなるような天候です。
「少し冷静になりましょう。」と私は相談者の方々にはよく言います。「それ、売り手の論理を真に受けてます。」と。
太陽光発電そのものを否定するつもりはありません。化石燃料には限りがあり、原子力には政治的リスクがあります。エネルギーの自給という観点から見ても、太陽光発電は人類にとって不可避の選択です。
いずれ太陽光発電に置き換わる時代が来るでしょう。
しかし問題は、いま、自宅の屋根に載せようとしているシリコンパネルが、「完成された技術」ではないということです。何十年も変化していない灯油ボイラーやガスボイラー、FFストーブのような技術とは全く違い、開発途上のものなのです。
つまり、近い将来、陳腐化する技術といえます。
住宅メーカーが語らない「出口」の話
住宅の商談で太陽光パネルの話になると、営業マンはこう言うかもしれません。
「月々の電気代がこれだけ浮きます」「売電収入でローンの負担も軽くなります」「15年で元が取れます」。
そこで語られるのは常に「入口」の話だけです。
では「出口」はどうなっているのか。つまり、劣化した後はどうなるのでしょうか?
太陽光発電は半永久です、などと悪質な嘘をついている営業マンさえいます。いや、嘘はついていないのです。肝心なところを誤解させるような言い方をしているというのが正確かもしれません。
パワーコンディショナーの寿命はおよそ15年です。交換費用は20〜30万円。パネルの出力は毎年0.5%前後ずつ低下します。そして最も見落とされているのが、パネルそのものの寿命です。
メーカー保証は25年程度。つまり、住宅ローン35年・建物寿命80年というスパンの中で、パネルの載せ替えは確実に発生するイベントだということです。
「15年で元が取れる」という試算には、パワコン交換費用も、パネル出力の低下も、30年後の撤去・廃棄費用も入っていません。そして、設置のための初期費用をもしNISAで運用したら、15年目にいくらになる可能性があるかという話は一切ありません。
損得の比較対象を恣意的に操作しているわけです。
それは試算ではなく、都合のいい数字の切り取りです。
「NISAと比較したらどうなりますか?」と質問することをお勧めします。そうするとおそらく「投資は大暴落することがあります」と答えるはずです。でも太陽光パネルは、維持費と寿命という確実な「価値暴落」が待っているのですが。
太陽光パネルを「一生モノ」と思い込んでいる人が多すぎる
住宅購入の相談を20年以上やってきた中で感じるのは、太陽光パネルの「終わり」を考えている人がほとんどいないということです。
屋根に載せた瞬間に、パネルが建物と同じ寿命を持つかのように錯覚してしまう。100年持つと思い込んでいる人すらいます。あるいは、そもそも何も考えていない人も。
恣意的な比較表を見せられ、これは太陽光を載せた方が絶対得だ、などと勘違いしているのです。
これはエコキュートでも蓄電池でも同じです。住宅という長い時間を前提にした箱の中に設備を入れると、設備にも同じ時間軸が適用されるかのような錯覚が起きる。しかし設備には必ず寿命があり、15年目・25年目あたりに確実にまとまった費用が発生します。
キャッシュフロー表にこれらのコストを入れると、「そんなにかかるんですか」と驚かれることが非常に多いです。
イニシャルコスト(初期の建築費用)が安く見えても、ランニングコスト(維持費)が高すぎて、生涯の支出が逆転することも少なくありません。
もう倒産して存在しないハウスメーカーですが、「FPは維持費の話はするな」と店長から注意を受けたことさえあります。残念ながらそれが実情なのです。
ペロブスカイトという技術を知っていますか?
太陽光発電の世界では今、ペロブスカイトという次世代技術が急速に進んでいます。
従来のシリコン製の太陽光パネルは、高純度のシリコン結晶を1,400℃以上で精製し、ウェハーに切り出し、クリーンルームで加工するという重厚な製造工程を必要とします。だからパネルは非常に重く、価格は高く、設置場所も限らます。
ペロブスカイトはまったく違います。
原理的にはインクジェット印刷のような方法で塗布でき、低温で製造できるのです。フィルムのように薄く、曲げることも自由。壁面にも窓にも貼れます。太陽電池が「精密工業製品」から「印刷物」に変わる、大きな可能性を持った技術です。
現時点ではまだ耐久性に課題があり、実用化は道半ば。
しかし研究レベルでは変換効率30%超を達成しており(現行シリコンパネルは約25%)、複数のメーカーが2028〜2030年の住宅用製品化を目指しています。
このプロブスカイトが大衆化し価格が下がったら、現在のシリコンパネルは屋根に乗っかった重い負の遺産と化します。撤去したいけどお金がないので壊れたものを載せたまま、という家を増えるでしょう。
ニュータウンなどで家々の壊れた太陽光パネルが太陽に反射しているという、ディストピアな光景が生まれるかもしれません。

既存の太陽光メーカーの焦り
ペロブスカイトの最新ニュースを追うと、「ペロブスカイト・シリコンタンデム型」という言葉が頻繁に出てきます。ペロブスカイトをシリコンの上に重ねることで効率を高めるという技術です。
一見すると合理的に見えますが、ここには、都合のいい産業界の利権と力学が働いています。
巨大シリコンメーカーは、膨大な設備投資をしてシリコンパネルの製造ラインを構築してきました。彼らにとって「シリコンが不要になる未来」は、自社の存在意義と投資を否定するシナリオです。
だからペロブスカイトを「シリコンの補完技術」として位置づけ、自社の製造基盤を温存しようとする。
しかしペロブスカイトの開発者自身は、違う未来を見ています。
学術論文では、ペロブスカイト・シリコンタンデムは「既存のシリコンインフラを利用して市場に参入するための橋渡し技術」と位置づけられています。
最終的にはシリコンを使わない全ペロブスカイト型が主流になると明言されています。シリコンパネルとペロブスカイトを両立させる前提はどこにもありません。
素材コスト・製造コスト・環境負荷のすべてにおいて、シリコンが不要になるほうが合理的だからです。
技術の世代交代で必ず起きること
これは太陽光発電に限った話ではありません。
技術の世代交代において、既存の大企業が新しい技術を「自社の枠組みの中に取り込もうとする」という現象は、経営学やイノベーション研究で繰り返し観察されてきたパターンです。
ハーバード・ビジネス・スクールのクレイトン・クリステンセンは、著書『イノベーションのジレンマ』の中で、この力学を「破壊的イノベーション」という概念で説明しました。
既存の大企業は、自社の顧客と収益基盤を守るために、新しい技術を「既存製品の改良版」として取り込もうとするのです。
ところが破壊的な技術は、最初は性能が低くても、やがて既存製品を根本から破壊してしまいます。
例えば・・・
デジタルカメラが登場したとき、古いフィルムカメラメーカーはそれを「フィルムカメラの補完ツール」として位置づけようとしました。
結果はご存じの通りです。補完技術だったはずの新技術が、ある閾値を超えた瞬間に旧技術を完全に飲み込みました。いま、フィルムカメラは趣味のものに、フィーチャーフォンは高齢者のものとして残っているだけです。
今のペロブスカイトは、まさにこのパターンの初期段階にあります。シリコンメーカーがタンデム型を推すのは、クリステンセンがいう「既存企業の合理的な自己防衛行動」そのものです。
シリコンの製造設備・サプライチェーン・技術者・特許。これら既存の資産が活きる形でしか新技術を受け入れたくない。それは経営上の感覚としては当然なのですが、消費者にとってのベストな選択とは限りません。
ただ、誤解が無いように言うと、かつてのフィルムメーカー、コダックもデジタルの技術を全く無視したわけでもありません。ただし、既存の自社の試算を壊さないように共存させようとして経営危機に陥りました。いま、大手シリコンパネルメーカーも、ペロブスカイトを研究しています。しかし経営報告書などでは経営上の判断としてペロブスカイトには触れていません。新技術に接点を持っておく程度のものかもしれません。
現在、ペロブスカイトの開発では中国企業が独走状態です。日本は材料であるヨウ素を産出できる国ですが、特許の出願数では中国が先を走っています。日本で大きなイノベーションが起きなくなって久しく、もしかしたら太陽光発電の分野でも将来は見る影もない、という状態になるかもしれません。
新しい技術に市場が塗り替わる時のスピードはとても速いものです。
消費者は新しい技術によって必要性まで変化するのです。
2010年頃は、フィーチャーフォンにワンセグテレビが付いていて便利だと思っていた消費者も、iPhoneの登場でワンセグテレビなど必要だと思わなくなりました。
太陽光も同じで、シリコンパネルに一生こだわる!という消費者はほとんどいないでしょう。新しい技術はあっという間に市場を席捲するのです。
消費者が知っておくべきは、太陽光パネルに関する情報のほぼすべてが売り手側から出ているという事実です。彼らが「今のパネルで十分です」と言うのは、消費者の30年後の家計を守る発言ではなく、自分たちの商売を守る発言でしょう。
それでも今、パネルを載せるべきか
ここまで読んで「では太陽光パネルは載せないほうがいいのか」と思われるかもしれません。答えは「場合による」です。
今すぐパネルを載せることが合理的なケースはあります。電気料金が高い地域に住んでいる、日照条件がいい、補助金が使える、住宅ローンの返済計画の中で初期費用を吸収できる。
こうした条件がそろっているなら、いまのシリコンパネルでも損得が成立する場合はあります。
ただしその判断は、特定の地理条件であることが必要です。少なくとも青森市ではないのです。
太陽光発電は将来必ず必要になる技術です。しかし今のシリコンパネルは、その必然に至る途中の技術です。開発途上の技術に何百万円も支払い、元が取れるか取れないかという話を続けるのでしょうか。
ご自身の家計で、太陽光パネルの導入が本当に得になるのかどうか。載せ替えコストまで含めた長期のキャッシュフローを確認してみてください。
当社でなくても結構です。緻密なキャッシュフロー表を計算してくれる住宅専門のFP事務所に相談してみてください。
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