最近、大手企業がこぞってAI導入を進めています。特に社内業務についての問い合わせは人間ではなくRAG化したAIに任せるように、何度も言われていることでしょう。
業務効率化、コスト削減、生産性向上。
AIに対して経営層にとっては魅力的なものを感じるでしょう。そして社員は、こう思っています。
「自分はいつか不要になるようだろう。」
経営層は社員が不要になるとは思っていないはずです。しかし社員はそう捉えています。
実は大手企業においても、ある重大な問題が議論されていないのです。
それは「AIを入れた後、人間は何をするのか」という問いです。それに対して多くの会社は社員に答えていません。
AIが奪うのは仕事ではなく「仕事の意味」
AI導入の議論では「仕事が奪われる」という脅威論と「人間にしかできない仕事が残る」というファンタジーが繰り返されてきました。
しかし現場で実際に起きていることは、どちらとも少し違います。
起きているのは「意味の空洞化」です。
仕事は奪われていないのですが、人間にしかできない仕事をしているわけでもないという、想像もしていなかった地獄です。
AIが書類の下書きを作り、人間がチェックする。AIが分析を出し、人間が承認する。数字の上では人間の工数が減り、効率化の成果として経営に報告されます。しかし現場の人間は、自分のチェックや承認が本当に価値を生んでいるのか確信が持てなくなっています。
「私なんかよりAIがやる方が正確でしょ・・・」という思いを抱えながら、AIの監視をしているだけなのです。
大手企業ほど待遇がいいので、人は辞めません。代わりに「自分は要らないのでは」という疑念を持ちながら日々過ごすしかなくなっています。
いずれ誰も本気で考えなくなり、AIの出力をなんとなく通すだけの日々になります。ミスが起きれば「AIが出したものを通しただけです」という言い訳が組織に蔓延する。
人間はやるだけ無駄。頑張るだけ無駄。AIは全てやってくれるし、進化も早い。
言ってみればAIに使われているだけです。
これは効率化ではなく、組織の空洞化でしょう。
FPの仕事で考える「再定義」の実例
私はファイナンシャルプランナーとして約20年、5,200世帯以上の相談に乗ってきました。その経験から、FPの仕事において、「仕事の再定義」がどういうことなのか体験しています。
その体験について少しお話しします。
FPの業務を分解すると、以下のようになります。
計算の領域(AIが代替できる)
- 住宅ローンの返済シミュレーション、キャッシュフロー表の作成などの計算業務
- 「この家計なら住宅購入予算は○○万円が目安です」といった数値の算出と提示
- 保険商品の比較、投資信託の特徴説明などの情報提供
- 「あなたの場合はこのプランが合っています」という提案(コンサルティング)
これらの作業自体に価値があるとして、数年前までは盛んに広告などでアピールしてきたのです。いまもInstagramなどで「FP相談しませんか?」みたいな広告を見ますが、正直、時代が変わったことに、まだ気づいていない会社なのでしょう。
この業務はもうすべてAIに置きかえることが可能です。
実際に私はこの領域で、自分の知見を搭載したAIアシスタント「Tally」として開発しました。20年分の相談経験で蓄積した知識をデジタル化し、誰でもいつでもアクセスできるようにしたのです。
ここではFPがプロにしかできないと言っていた「家計のキャッシュフロー表」まで、対話だけで作成することが可能になり、それに対するアドバイスもできるようになっています。
2024年まで、FPは自分の出来ることの価値を疑っていませんでしたが、もうAIで済むのです。私を含めて、FPの価値は急激に逓減しています。
では、人間のFPに残るものは何か?
それは「カウンセリング」です。コンサルティングではありません。
コンサルティングとは、データと知識にもとづいて最適な選択肢を提示すること。これはAIのほうが得意です。網羅性でも計算速度でも人間は絶対に勝てません。
一方、カウンセリングとは、相談者が自分でも気づいていない不安や価値観を対話の中で引き出し、その人自身が納得して決断できるように寄り添うことです。
「数字の上ではこの住宅ローンが最適ですが、あなたはなぜかこのプランを避けたがっていますね。それはどうしてですか?」
この問いかけはAIにはできません。相談相手の表情の微妙な変化、声のトーン、言葉にならない逡巡、過去の生育環境を含めたナラティブの部分、それを読み取りながら、その人が本当に望んでいる人生の方向を一緒に探る。
これがFPの仕事として再定義された「人間にしか担えない領域」です。
これもあと少しで不要になる領域なのですが、現時点ではこのカウンセリングが残された仕事でしょう。
このことで何が起こるか?
人間のFPに依頼する業務が少なくなるため、FPは相談料金(フィー)で仕事をすることが不可能になります。心理カウンセラーでもない人間が、家計カウンセリングだけで料金を取るのは、ちょっと無しでしょう。私なら払いません。
カウンセリング部分までAIに担わせる研究開発をしています
その「聖域」であるカウンセリング部分も、私はAIに置きかえることが可能だと見ています。
当社ではナラティブ対話エンジン「Noema」を研究開発しています。
これは単なるチャットボットではなく、対話の文脈を深く記憶し、過去の記憶を参照しながら、相手との精神的な関係を築いていくAIです。
つまり、カウンセリング的な対話という、つい最近まで人間にしかできないと思われていた領域にもAIが踏み込むことが可能になってきたのです。生身の人間は相談相手の過去のナラティブ(物語)をすべて記憶し、必要に応じて共起、想起することができません。
人間にしかできないと言いつつ、人間には無理なことがコミュニケーションでは多いのです。そのため、特に保険営業マンは「いい人」「立派な人格(ホールパーソン)」を演じて、コミュニケーション不全と差別化できない商品内容を誤魔化そうとする傾向があります。
AIはどうでしょうか。人間の思考は、実はgraph、ノード、エッジ、その重さと方向と減衰をコントロールすることで再現することがどうやらできるようだというのが、当社の研究です。人間の能力を超えた感情エンジンを作ることも可能でしょう。
映画『ブレードランナー』に登場したレプリカントは、思考部分だけならもう実装可能なレベルまできています。映画では共感の能力を開発者が安全装置として実装しなかったという設定でしたが、共感の部分ももう実装可能になりつつあります。
だとしたら、カウンセリングを人間のFPに依頼する必要はありません。
カウンセリングが残るとしたら、医療分野での有資格者による心理カウンセリングのみでしょう。
FPは、一年後、二年後にはまた自分の仕事の再々定義が必要になります。
再定義なき導入が行き着く先
ジョージ・オーウェルの小説『1984年』では、人々は巨大なシステムに管理され、自分で考えることをやめた世界が描かれています。
仕事の再定義をしないままAIを導入し続ける組織は、これに近い状態に向かいかねません。
AIが方針を出し、人間はそれを実行するだけ。判断も思考もAIに委ね、人間は承認ボタンを押す係になる。一見すると効率的に見えますが、その組織には「なぜそうするのか」を理解している人間がいなくなります。
AIが間違えたとき、誰も修正できない。市場環境が急変したとき、AIの前提が崩れたことに誰も気づけない。組織全体が思考停止したまま、システムに依存して動き続ける。
これは技術的な問題ではなく、経営の問題です。
経営者が答えるべきたった一つの問い
AI導入を進める経営者が向き合うべき問いはなんでしょうか。
「この会社で、人間がやる意味があることは何か」
この問いに答えられるでしょうか。仕事を無くさないために仕事を残す、ではもう通用しません。
3,000人で回していた仕事を、5人で回せる会社が出てきたら、あっという間に負けます。
年収1,200万円の社員が3,000人いる会社と、年収4,000万円の社員が5人で回す会社。生産性で勝てるわけがありません。AIはそれをもう可能にしつつあります。
人間にしかできないことを再定義すること。それを急がなければ、小さな会社が猛追してきます。ソロプレナー、ソロ開発者などが増えていますが、かつての個人事業主と同じように考えてはいけません。
AIの活用によって、たとえソロプレナーであっても、10年前の100人規模の会社の業務を一人でこなせるようになっているからです。ソロプレナーのPDCAは爆速どころか、秒単位です。稟議も会議もない会社の成長スピードを甘く見ていると、簡単にゲームチェンジします。社員数で会社の規模を測る習慣がある人は、50代以上に多いでしょう。もうそれは勘違いなのです。
それはもう保険業界、FP業界では起き始めているのです。かつては護送船団方式で守られてきたお堅い業界の末端から、人間が不要になる世界が始まっています。
再定義は一度では終わらない
AIは脅威でしょうか。私はそうは思いません。
私のように、常に業界の末端で、いつも見上げるような目線で過ごしていた人間には、大きなチャンスがあります。
一人ではできなかったことが爆速で可能になっているからです。
一方で、あまりにも過去の成功体験と、その生存バイアスにしがみつく人間が多すぎます。
「AIが人間に置き換わるよ」という話題はFP・保険業界でもあるのですが、多くの人が考えているのは、「人間型のペッパー君みたいなアンドロイドが保険契約の受付をする」という、レトロフューチャーであることに驚きます。しかもその実現性を10年後と考えているようで・・・。
もう始まっていることに全く気付いていない。「ご縁に感謝」などというお礼状を顧客に送っている場合ではないのです。
私のように業界に馴染めず、いわば負け犬、厄介者とされてきた人間が、AIを使って価値観までひっくり返していく。それは痛快であると同時に、世界全体で見ると巨大なゲームチェンチェンジが行われることへの不安もあります。
巨大な企業は、この大きな潮流にどう対処していくのかは私には分かりません。でも、いま、中小企業からソロプレナーまでの小さな組織にとってはチャンス到来なのは間違いありません。
住宅・保険・ライフプランの疑問を、AIに。
Tally(タリー)は、FP経験20年・5,000世帯の相談実績を学習したRAG型AIエージェント。商品の売り込みなしであなたの不安に答えます。一生分のキャッシュフロー表も自動作成。



























