SNSなどで、こんなことを言う人たちを見たことはありませんか?
「住宅ローンは25人に1人が破綻する」
あるいは
「50人に1人が破綻する」
これを見て、家を買うのをやめようと思った方がいるかもしれません。
結論から言います。この数字は完全な間違いです。根拠は一応あるのですが、完全に資料を読み違えています。
「25人に1人」「50人に1人」はどこから出てきたのか
そもそもこの話の根拠はなんでしょうか。
あるブロガーは、「およそ25人に1人以上の割合で住宅ローンの返済になんらかの問題を抱えているらしい」と書いています。
あるSNSのアカウントは「日本全体での住宅ローンの破綻率は概ね2〜3%、およそ50人に1人程度と推計されるらしい」としています。
全部、「らしい」なのです。伝言ゲームで広がっているようなのです。
ノストラダムスの大予言や口裂け女みたいなものと同じ。
この話の根拠は何かと、筆者が調べてみたところ・・・
どうやら最初の出どころは、住宅金融支援機構がディスクロージャーしている「リスク管理債権比率」のようです。
リスク管理債権とは、返済に何らかの危険な徴候がありますよという融資額の比率のことです。
これを知識なく読めば、確かに50人に1人が自己破産しているように見えるため、あるブロガーが読み違えたまま記事を出してしまったのです。
情報商材屋など、住宅ローンで破綻する人が多く見えれば得をする人がさらに広め、さらに話が盛られ・・・という流れのようです。
リスク管理債権とは?
リスク管理債権について説明していきます。
リスク管理債権とは、金融機関が「回収に注意を要する」として開示している債権の残高です。その中身は4つに分かれます。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 破産更生債権等 | 破産・再生手続などに至った先への債権 |
| 危険債権 | 経営破綻には至っていないが回収が困難な可能性が高い債権 |
| 三月以上延滞債権 | 3か月以上返済が遅れている債権 |
| 貸出条件緩和債権 | 返済期間の延長など、返済方法の変更に応じた債権 |
重要なのは、これが「破綻した人の数」ではないことです。債権残高の比率であり、しかも延滞や返済方法変更を含んでいます。
リスク管理債権の総額を何人が構成しているのかは、開示されていません。開示されたこともありません。「25人ひとり」というのはそもそも嘘なのです。
では、住宅支援機構が実際に開示している数字を見てみましょう
リスク管理債権が全体のどれほどを占めるのか、紹介します。
2024年度(2025年3月末)の数字です。
| 区分 | 破綻・延滞等 | 貸出条件緩和債権を含む |
|---|---|---|
| 既往債権等(旧住宅金融公庫から引き継いだ債権) | 2.77% | 5.86% |
| 買取債権(フラット35) | 0.93% | 1.86% |
| 合計 | 1.37% | 2.80% |
全体で1.37%も破綻・延滞しているの?100人に1人じゃん!ってまた思った人もいるかもしれません。
貸し出し条件を緩和してもらった人を含めたら2.80%、50人に1人じゃん!って思った人もいるでしょう。
そもそも、この表の読み方を間違えているのです。
フラット35の「破綻・延滞等」は0.93%です。
リスク管理債権への誤解
リスク管理債権について正しい知識を解説します。
リスク管理債権は「破綻」ではない
リスク管理債権には、貸出条件緩和債権が含まれます。
これは、災害で被災した、収入が減ったといった事情で返済方法の変更に応じた債権です。機構が住み続けられるように支援した結果として計上されるもので、破綻の数字ではありません。
機構自身、2024年度の貸出条件緩和債権はリスク管理債権の約51%を占めると開示しています。半分は破綻ではないということです。
旧住宅金融公庫の債権を合計している
ここが最大のポイントです。
機構の開示は「既往債権等」と「買取債権」に分かれています。
既往債権等は、2007年に廃止された旧住宅金融公庫から引き継いだ古い債権です。バブル期の高金利で貸したもの、ゆとり返済のものも含まれます。これは住宅金融公庫が融資したフラット35の債券ではないのです。
買取債権の方が、フラット35の数字になります。
それを前提に、もう一度、2024年度の数字を見てください。
| 区分 | 破綻・延滞等 | 貸出条件緩和債権を含む |
|---|---|---|
| 既往債権等(旧公庫) | 2.77% | 5.86% |
| 買取債権(フラット35) | 0.93% | 1.86% |
| 合計 | 1.37% | 2.80% |
「25人に1人(4%)」「50人に1人(2%)」という数字は、この合計値、あるいは旧公庫の債権を含めて期間で平均した値のようです。
いまフラット35を借りている人の話ではありません。なぜ、既往債権まで含めて計算したのか?それは数字の読み方を知らないのか、その計算の方が自分に都合がいいか、どちらかです。あるいは両方でしょう。
残高比率であって人数ではない
リスク管理債権比率は、債権残高に対する金額の比率です。
「借りた人100人のうち何人が破綻したか」を示す数字ではありません。
「25人に1人」「100人に3人」という言い換えは、数字の前提を間違えています。
フラット35でさえ0.93%・銀行の住宅ローンはもっと低い
フラット35は、職業や勤続年数で画一的に選別しない住宅ローンです。住宅金融支援機構自身、2025年度予算の説明で「職業等による画一的融資選別をしない」と明記しています。融資率も上限10割まで認めています。
つまり、民間銀行より審査の門戸が広いのがフラット35です。
そのローンでさえ、リスク管理債権は0.93%です。
では、銀行の住宅ローンはどうでしょうか。
ソニー銀行の2025年3月期決算を見てみていきます。ソニー銀行は、貸出金3兆6,730億円のうち3兆6,518億円が住宅ローンで、実質的に住宅ローン専業銀行です。
このソニー銀行のリスク管理債権はどれほどかというと・・・
| 区分 | 金額 |
|---|---|
| 破産更生債権及びこれらに準ずる債権 | 359百万円 |
| 危険債権 | 673百万円 |
| 三月以上延滞債権 | 0円 |
| 貸出条件緩和債権 | 827百万円 |
| 小計 | 1,861百万円 |
| 債権合計 | 3,676,351百万円 |
言葉は違いますが、リスク管理債権の比率は 0.05%。貸出条件緩和債権を除けば 0.03% です。
なんと、三月以上延滞している債権は0%です。
2,000人に1人です。25人に1人ではありません。しかもそれは滞納をしているような破綻ケースではないのです。
これは融資審査が厳しいソニー銀行という事情もありますが、銀行は極めて低い比率に収まっています。
湾岸マンションの160世帯が自己破産している?わけがない
もし25人に1人が破綻するのだとしたら、東京の湾岸エリアのタワーマンションの住民は何世帯が自己破産するのでしょうか。
仮に4,000世帯いるとすると、25人に1人として160世帯です。
すごい数ですね。社会問題になります。
もちろんそんなことはありません。基本的にゼロ、せいぜい1世帯いるかどうかでしょう。
ちなみに、私はこれまで5,200世帯以上の相談会をしてきましたが、家を買って自己破産した人はゼロです。経済的な事情で任意売却した世帯もゼロです。
ライフプランニングをして家を買っているのでゼロになるのは当然なのですが、もしライフプランニングをしていなかたとしても、ゼロに近いと思います。
なぜなら、銀行の融資審査はそんなに甘くないからです。返せない人に、返せない金額は融資しません。特に住宅ローンは厳しいのです。
なぜそんな嘘が広がったのか?
ネットで、住宅ローンの破綻率を実際の数十倍に見せるのはなぜなのでしょうか。
それは売りたいものがあるからです。
「家など買うべきではない」「賃貸に住んで、浮いたお金を運用に回せ」という話に必ずつながります。
そして、その運用を教えるという情報商材やセミナーの売り込みがはじまります。
恐怖を訴求されると思考停止してモノを買ってしまう人は一定数います。情報商材的な派手な物言い、派手な広告を出されると、「家を買うなんて情弱だ」と言い出すわけです。
そして、住宅ローンという大きな決断をするのが怖いという人にも耳障りがいいようです。
「家なんか買うべきじゃないってSNSでみた!」と得意げに言う人は、当社の相談会にもたまにいます。家が欲しいと思っている配偶者とは大喧嘩し、離婚に至る人もいます。
デカい数字、派手な数字ほど、決断を回避する行動を正当化してしまうのです。
「借りられる額と返せる額は違う」というFPの決まり文句は嘘
FP相談でも、誇張されたこの数字が出てくることがあります。
「50人に1人が破綻するといわれています。だから銀行が貸してくれる金額と、あなたが完済できる金額は違うます」とかなんとか・・・。
デカい数字は、自分の住宅コンサルティングに自信のないFP(実態は生命保険会社の社員など)ほど使おうとします。
そうやってデカい数字で恐怖を与えるほど、家の予算は小さくなり、自分は高額な積立保険や投資商品が売れるのです。
つまり高額な住宅ローンを借りてもらっては不都合な人たちがいるのです。
銀行の与信プロセスは、そんなに甘くない
返せない人に返せない金額を貸すほど、銀行の審査部は雑な仕事をしていません。
銀行は年収と返済比率を機械的に当てはめているわけでもありません。実際には、勤務先、勤続年数、クレジットヒストリー、勤務先と銀行の取引状況まで見ています。その銀行と配偶者がトラブルになったことがあれば、その履歴も密かに見ます。行内情報なら何年前でも遡れます。
(行内情報であっても同意のない情報は見ないという建前ですが、実際は見ていると思った方がいいです。同居の親族は簡単に名寄せでヒットします。)
銀行は、完済できる金額であることをあらゆる角度から計算し、審査を行っています。
「借りられる額」は、銀行がその人の情報を集めて出した見立てです。それを素人のFP・保険屋さんが「返せる額とは違う」と言うのは、審査の実務を知らないから言えることです。
では、なぜ返済が行き詰まる人がいるのか
もちろん返済に行き詰まる人はゼロではありません。
行き詰まった人をこれまで大勢見てきましたが・・・
その原因は「無理な借入」でも「家計のやりくりの甘さ」でもありません。家計をやりくりできずに行き詰まる人は、ゼロでした。
実際の原因は、病気、失業、転職による収入減、家族のトラブル、そしてギャンブル、不倫などの性依存、病的な買い物依存です。
私が見たケースは、半数が不倫がきっかけでした。自分の経済力を超えた遊ぶお金を得るためにクレジットカードを使う、消費者金融を使う、返済に困り、借金で借金を返す、その繰り返して破綻です。不倫による疲れとストレスから正常な判断力を失い、滞納をしてしまうようです。
これは男性も女性も同じようにあります。男性だけではありません。
残りの半数は、ギャンブルや人間関係のトラブルが原因でした。
これらに共通するのは、生活や仕事へのストレスです。配偶者に対するストレスもあるでしょう。満たされない、認められない、尊重されない、関心を持たれない。そんなストレスは、簡単に家計を破壊します。
実のところ、家計を守っていく近道は、「ストレスを早めに処理する」ということに尽きるかもしれません。
夫婦で話し合う習慣を持つ、ストレス解消で買い物をする習慣をやめる、夫婦関係の外に逃げ道を作らない、逃げ道を作ったとしてもお金には気をつける。買い物も不倫も私は否定はしません。でも、それがストレス発散の手段となったとき、家計はあっという間に崩れていきます。
※この記事の数値は住宅金融支援機構「商品内容説明書(発行者情報)2025年8月」およびソニー銀行「2025年3月期決算の概要」に基づきます。
住宅・保険・ライフプランの疑問を、AIに。
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