繰上げ返済は「早いほど得」という思い込みが危ない
住宅ローンを早く返したい、という気持ちはよくわかります。ただ、今が住宅ローン控除を受けている期間なら、少し立ち止まって考えてほしいことがあります。
繰上げ返済は、タイミングを間違えると損になります。これは珍しいケースではなく、控除期間中に繰上げを急ぐと、かなりの確率で手元に残るお金が減ります。
まず知っておくべきこと〜住宅ローン控除の仕組み
住宅ローン控除(正式名称:住宅借入金等特別控除)は、年末のローン残高の0.7%が、所得税・住民税から引かれる制度です。
たとえば年末時点の残高が3,000万円なら、3,000万円 × 0.7% = 21万円が税金から引かれます。これが最長13年間続きます。
なぜ控除期間中の繰上げ返済が損になるのか
低金利の住宅ローンとの比較
変動金利の住宅ローンは、現在0.4〜0.7%前後が多い水準です(2026年時点)。
一方、住宅ローン控除の還付率は残高の0.7%です。
つまり、ローンの金利と控除の還付率がほぼ同じ、あるいは控除のほうが上回っているケースがあります。
この状態で繰上げ返済をするとどうなるか。残高が減る → 控除額も減る、という結果になります。
具体的な試算:3,000万円・0.5%・35年返済の場合
前提条件
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 借入額 | 3,000万円 |
| 金利 | 変動0.5% |
| 返済期間 | 35年 |
| 控除率 | 0.7% |
| 年収 | 600万円(控除を満額受けられる前提) |
繰上げしない場合(13年間の控除額試算)
初年度の残高はおよそ2,940万円。毎年残高は約80万円ずつ減るとして、13年間の控除額合計はおよそ230万円前後になります。
5年目に200万円を繰上げ返済した場合
5年目以降の残高が約200万円減るため、5年目〜13年目の9年間、控除額が毎年約1.4万円減ります(200万円 × 0.7%)。
9年間の控除減少額:約1.4万円 × 9年 = 約12.6万円の控除喪失
一方、200万円を0.5%で運用した場合の利息節約額は年1万円。9年間で約9万円。
結果:控除喪失(12.6万円)>利息節約(9万円)となり、繰上げ返済のほうが損になります。
金利が高い場合は話が変わる
変動金利が1.5%を超えてくると、計算は逆転します。
試算:金利1.5%・残高3,000万円・控除0.7%の場合
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 200万円分の年間利息 | 3万円 |
| 200万円分の年間控除額 | 1.4万円 |
| 差引き(繰上げのメリット) | 1.6万円/年 |
金利が控除率を大きく上回るため、繰上げ返済のほうが有利になります。
変動金利水準別の目安
| 変動金利水準 | 控除期間中の繰上げ |
|---|---|
| 0.7%以下 | 繰上げはほぼ損 |
| 0.7〜1.0% | 状況次第。手元資金と要相談 |
| 1.0〜1.5% | やや繰上げが有利になり始める |
| 1.5%超 | 繰上げを前向きに検討する |
フラット35(固定)の場合は金利が1.5〜2.0%台のことが多く、控除期間中でも繰上げを検討する価値が出てきます。
繰上げより先にやること:余剰資金の使い道の順番
控除期間中に手元に余裕資金があるなら、繰上げ返済より先に考えてほしいことがあります。
- 生活費6ヶ月分の手元資金確保(急な出費・失業・病気への備え)
- 高金利な借入の返済(カードローン・自動車ローンなど)
- iDeCo・NISAへの積み立て(節税効果が大きい)
- 住宅ローンの繰上げ返済
iDeCoは掛け金が全額所得控除になります。年収600万円の方が年間27.6万円(会社員の上限)を掛けると、年間の節税額は5〜6万円程度になります。繰上げ返済の節約より、iDeCoの節税のほうが効果が大きいケースが多いです。
控除終了後(14年目以降)は繰上げを検討する
住宅ローン控除が終わった時点で、状況が変わります。金利分の利息を払い続けるだけになるため、返済余力があれば繰上げ返済を検討するタイミングです。
返済期間短縮型 vs 返済額軽減型、どちらを選ぶか
繰上げ返済には2種類あります。
返済期間短縮型は、毎月の返済額はそのままでローンが終わる時期を早める方法です。総利息の削減効果が大きい。
返済額軽減型は、返済期間はそのままで毎月の返済額を減らす方法です。家計の負担がすぐに楽になる。
| 比較項目 | 期間短縮型 | 返済額軽減型 |
|---|---|---|
| 総利息削減効果 | 大きい | 小さい |
| 毎月の家計への効果 | すぐには変わらない | すぐに楽になる |
| 向いている人 | 収入が安定している人 | 家計に余裕を持ちたい人 |
利息の節約を最大化するなら期間短縮型が有利です。ただし、子どもの教育費ピークや親の介護が重なる時期は、返済額を減らして手元現金を厚くする選択のほうが安全なこともあります。
繰上げ返済のタイミングの考え方
まず「今、住宅ローン控除を受けているか」を確認します。
控除期間中であれば、変動金利が0.7%を下回っているなら繰上げは待つ。1.5%を超えているなら繰上げを検討する、が基本線です。
控除期間が終わっているなら、返済余力の範囲で繰上げ返済を進める。期間短縮型を選べば、総支払額を最も減らせます。
ただし、繰上げ返済の最適な時期は、金利・残高・年収・家族の状況によって変わります。
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