住宅ローンをこれから借りようとする世帯の相談を数多く受けますが、2026年7月現在、多くの世帯のテーマは「変動金利型で本当にいいのか?だからといってフラット35にしても後悔しないか?」というものになっています。
本当に悩ましいですよね。専門家も含めて誰も金利動向など占えないのですから。いろんな人が、いろんな立場で、いろんなことを言っています。
この記事では、2026年7月現在、いま見えている金融情勢を解説していきます。
ポジショントークに惑わされないように
住宅メーカーの営業マンや、そこのお抱えのFP(保険営業マン)にこんな質問をするとします。
「今後、金利はどうなると思いますか?」
本来、正しい答えはこうです。
「金利動向は断定的なことは言えません。ただし日銀は利上げの姿勢を崩していないことと、物価と円安が問題になっていることから、変動金利は上昇を続ける可能性は高いでしょう。フラット35も検討の余地はあります。」
これが本来のアドバイスです。
ところが、このように説明してくれる住宅営業マンや生命保険の営業マンはごく限られています。なぜか断定的なことを言い出すのです。
「変動金利は少ししか上がりませんよ。不景気なのに金利が上がったら国民が大変になりますからね!」
「変動金利が上がったら住宅ローン破産する人が出ますよ。フラット35を選ぶ必要はないです」
そんなことを言って、責任を本当に取ってくれるのでしょうか。しかも、住宅営業マンも保険営業マンも、住宅金融の専門家ではありません。
なぜ金利が上がらない予想をするのか?それは自分が売りたいものがあるからです。
住宅営業マンは毎月の支払額を安く見せたいし、保険営業マンは家計が少しでも楽に見えるようにして高い保険を売りたい。たったそれだけでしょう。
共通するのは、日本銀行とはどのような論理で動いているのか理解していないという点です。
日銀が利上げをする理由とは?日銀の法的な使命とは?
日本銀行はひとつの大きな目標(使命)を持っています。
それは「物価の安定」です。
この目標だけに向かって金融政策が決められています。
たまにFPの中にもここを勘違いしている人がいて、「日銀が利上げしようとしているが政府が止める」と言ったりします。
実際には1998年に改正された日本銀行法では、日銀の独立性が明文化されています。政治家は選挙で選ばれるため、時代によっては人気投票の様相で選ばれることがあります。その流れで国民の人気を取るために中央銀行の金融政策に圧力をかけることが許されていいわけがありません。
それで連想するのは、アメリカのトランプ大統領のFRB(中央銀行にあたる連邦準備制度理事会)の議長パウエル氏への圧力です。トランプが支援者への人気取りのために利下げを演出したいところを、パウエル議長が頑なに拒否していました。
FRBの持つふたつの使命(デュアルマンデート)は、「物価の安定」と「雇用の最大化」です。政治家のポピュリズム(大衆迎合)でこの使命を手放すわけにはいきません。
日銀が利上げをする理由は、物価の上昇を抑えるため
日銀が利上げをする理由は、物価の上昇を抑え安定させるためです。
「住宅ローンが払えなくなる人が大勢出るから、政治家が利上げを止めるだろう」と説明しているひとたちは、本質的なところを理解していないのでしょう。
もし政府が日銀の利上げに強く圧力をかけたとすると、それは大スキャンダルになってしまいます。安倍晋三氏が総理大臣だった時代、日本銀行と一体となって異次元緩和を行ったイメージが強いのか、日本銀行=政府と勘違いするのかもしれません。
住宅ローンに困窮する人が出ることは、極論すると日本銀行の守備範囲ではありません。あくまでも痛みの部分であり、それに対処するのは仕事ではないのです。
物価が上がり続けると、同じ給料でも買えるものが減り、家計は実質的に苦しくなります。これを放置すれば経済全体が不安定になる。だから中央銀行は金利を上げて、お金を借りるコストを高め、過熱した経済に冷や水をかけます。
事実、住宅価格は高騰し続けています。これに冷や水をかけるためにも利上げは必要でしょう。「住宅価格高騰」自体が物価(CPI)を押し上げている要因のひとつです。東京都内のマンションは完全に庶民の購買力を超えたバブル価格となっていて、それを低金利であるがゆえに買えてしまうという異常な歪みも、放置するべきではないはずです。
余談ですが、20年以上続いてきた住宅ローン減税は終わりの時が見えてきていると読むこともできます。低金利環境だからこそ利息に対して補助をして住宅購入を促したわけで、今はむしろ住宅価格に冷や水をかけるべき時なので減税政策が終わっていくのは既定路線でしょう。減税がなくなれば、繰り上げ返済の戦略も大幅に変わります。
円安の是正のためにも利上げが必要
利上げのもう一つの理由が、円安の是正です。
金利には国をまたいだ資金の流れを左右する力があります。日本の金利が低くアメリカの金利が高い状態では、投資家は円を売ってドルに換え、金利の高いアメリカで運用しようとします。これが円安を招きます。
日銀が利上げをすると日米の金利差が縮まり、円を売る動機が弱まるため、円高方向に動きます。少なくとも理論上はそうです。(実際はもっと複雑になるでしょう)
つまり日銀が利上げをするのは、物価高と円安という2つの問題に同時に対処するためです。繰り返しますが、住宅ローン借り手の返済と家計を守ることは、日銀の使命ではありません。
日本銀行法第2条には、日銀の目的として「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資する」と明記されています。ローンの借り手を保護するという義務は、法律のどこにも存在しません。
有権者からの人気が欲しい政治家が気にしているのは、足元の家計です。家計が苦しくなったとなれば、選挙に負けてしまいます。だからなんとか日本銀行に利上げを止めてもらおうとしたいのですが、法律が許してくれません。
FRBは「雇用を守る義務」があるのに、それでも利上げした
またアメリカの事例を紹介します。
アメリカのFRB(連邦準備制度)は、日銀よりも広い使命を持っています。
繰り返しますが、連邦準備法によってFRBに課されているのは「物価の安定」と「雇用の最大化」の2つで、これを「デュアルマンデート」と呼びます。雇用を守ることが法律で明文化されており、利上げ判断において雇用・景気への打撃を正面から考慮する義務があります。
日本銀行よりももっと踏み込んだ使命を持っていることが理解できると思います。
では、FRBは2022年に何をしたか。インフレが深刻化する中で、雇用保護の義務を持ちながらも、約1年半で政策金利を0〜0.25%から5.25〜5.5%まで引き上げました。
住宅ローン金利は8%を超え、返済できなくなる家庭も出ました。それでも金利を上げ続けました。インフレを放置することのほうが、雇用や家計への打撃よりもはるかに深刻だと判断したからです。
現在のアメリカ経済を見れば、正しい判断だったことが分かります。
雇用保護の義務を持つFRBでさえそうした選択をしたのです。
「住宅ローンの返済に困る人が出るから、政治家が利上げを止める」という、一部のFP・保険営業マンの謎論理は、いかに現実とかけ離れているかご理解いただけると思います。
政策金利はすでに1.0%に到達している
日銀は2026年6月の金融政策決定会合で、政策金利を0.75%から1.0%に引き上げることを決定しました。1995年以来、31年ぶりの高水準です。
| 時期 | 政策金利 | 動き |
|---|---|---|
| 2024年3月以前 | −0.1% | マイナス金利 |
| 2024年3月 | 0% | マイナス金利解除 |
| 2024年7月 | 0.25% | 追加利上げ |
| 2025年1月 | 0.5% | 追加利上げ |
| 2025年12月 | 0.75% | 追加利上げ |
| 2026年6月 | 1.0% | 追加利上げ(31年ぶり高水準) |
2024年以降、日銀は一貫して利上げを続けています。「上げるか上げないか」のではなく、すでに「上げている」のです。
今後も利上げを後押しする条件も着々と整っています。
2024年から2026年にかけて春闘の賃上げ率は3年連続で30年ぶりの高水準を維持し、日銀が条件として掲げてきた「賃金と物価の好循環」が現実になりつつあります。コアCPIも2%前後での推移が続いており、金融緩和を続ける理由はなくなっています。
今後の見通しは?
金融機関では、すでに今後の利上げを織り込み済みです。
野村證券は2026年12月・2027年6月の追加利上げをメインシナリオとして示しており、政策金利は1.5%への到達を予想しています。円安が一段と進んだ場合のリスクシナリオでは、ターミナルレート(利上げの最終到達点)は1.75%に達するとみています。
円金利市場全体では、2年後に政策金利が2%に達することを織り込む動きも出ています。
では、政策金利が1.75%、2%に達した場合、住宅ローンの変動金利の適用金利はどうなるでしょうか?
現在の大手銀行の店頭基準金利は、政策金利1.0%に対して2.625%前後です。政策金利と店頭基準金利の差はおおむね1.625%で推移しており、この関係が続くと仮定すると、以下のような水準になります。
| 政策金利 | 店頭基準金利(目安) | 適用金利の目安(優遇幅1.85%の場合) | 適用金利の目安(優遇幅1.5%の場合) |
|---|---|---|---|
| 現在 1.0% | 約2.625% | 約0.775% | 約1.125% |
| 1.5% | 約3.125% | 約1.275% | 約1.625% |
| 1.75% | 約3.375% | 約1.525% | 約1.875% |
| 2.0% | 約3.625% | 約1.775% | 約2.125% |
優遇幅は契約時期と銀行によって異なります。2020年前後にネット銀行で借りた方は優遇幅が大きく(1.85%超)、政策金利が2%に達しても適用金利は2%前後にとどまる可能性があります。
一方、地方銀行や当初優遇型で借りた方は優遇幅が小さく、同じ政策金利でも適用金利が3%台に乗るケースもあります。
注意が必要なのは、政策金利の上昇幅と店頭基準金利の上昇幅が必ずしも一致しないことです。
2025〜2026年の利上げ局面では、銀行によって引き上げ幅が0.25〜0.35%とばらつきが出ました。銀行が独自の判断で基準金利を政策金利以上に引き上げた場合、適用金利はこの表より高くなります。
変動金利のリスクは、政策金利だけではない
変動金利には、見落とされやすいもう一つのリスクがあります。借りた時期と銀行によって、金利上昇の実態が大きく異なるという点です。
大手ネット銀行の多くは「全期間一律優遇」を明示しており、契約時に確定した優遇幅が完済まで変わりません。
この場合、金利上昇の要因は政策金利の動向のみです。
一方、「当初優遇型」と呼ばれる住宅ローン商品では話が異なります。
当初優遇型は、借入から一定期間(多くは10年)だけ大幅な金利引き下げが適用され、その後は優遇幅が縮小されて基準金利に近い水準になります。
たとえば、2016年頃に変動金利0.89%で借りた世帯が現在2.3%台になっているケースがあります。2024年以降の政策金利上昇だけでは1%程度の上昇にしかなりません。残りの上昇分は、当初優遇期間の終了による優遇幅の縮小が重なった結果と考えられます。
| 上昇の要因 | 上昇幅の目安 |
|---|---|
| 当初優遇期間終了による優遇幅縮小 | +0.7〜1.0%程度 |
| 2024年以降の政策金利上昇分 | +約1.0% |
| 合計 | +1.7〜2.0% |
「なぜこんなに上がったのか」と感じているなら、政策金利だけでなく、自分の契約が当初優遇型だったかもしれません。
4%で家計のストレステストを実施してください
住宅ローンの返済計画を立てる際、変動金利が4%に達した場合のシミュレーションをすることを私は勧めています。
もちろん、これは「4%になると予測する」という話ではありません。「4%になっても生活が破綻しないかを確認する」ためのストレステストです。
この4%という数字に、住宅営業マンもお抱えのFP(保険営業マン)も神経質になって拒否しがちです。ありえないことを言って客を怖がらせるな、家と保険が売れないだろ、というわけです。
住宅ローン金利が4%になるには、政策金利が3%台まで上昇する必要があります。もしくは金利優遇幅が小さくなる必要があります。この20年ほどの低金利に慣れた身から考えれば、ありえない話に思えるはずです。
しかしこれを非現実的と断言できる根拠は、現時点では誰も持っていません。政策金利の1%到達自体、3年前には「非現実的」と言われていた水準です。住宅ローンの専門家を自称している人さえ、ネット銀行の変動金利は0.29%のまま最後まで行くと言っていたのです。
もう、当時のご自身の主張を忘れたような人も多いですが。当時、私もSNSではずいぶんと叩かれたものです。利上げなんてするわけないだろと名指しで馬鹿にされましたが、その人たちは「私の予想通り利上げです」などと言っているので、なんだかなあと思ってみています。
ともかく、4%という今考えられる最悪のケースでも家計が持ちこたえられるかを事前に確認しておくことです。
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