医療保険は本当に不要なのか?

「医療保険はいらない」と断言する投資系ユーチューバー

「医療保険はいらない」「高額療養費制度があるから不要」「医療保険は保険会社が儲かる仕組みだ」

こうした話をユーチューブやSNSでよく見かけます。

この話題は再生回数も伸びやすく、見ていて「なるほど」と思ってしまう人も多いのでしょう。

結論から言うと、残念ながら医療の現場の感覚とはほど遠い、間違った情報といえます。

たしかに医療保険が不要な人もいます。しかしそれは数千万円レベルの流動性資産、つまり普通預金にそれだけの貯蓄がある人に限られるという印象です。たとえ資産が1億円だとしてもそのほどんどが株式や不動産という人は、医療保険はやはり必要でしょう。

なぜか。

大病ともなると、お金は際限なく出ていくのです。休職や退職をすると収入までもがなくなります。

医療保険が不要だと唱える人は、高額療養費制度があるから不要なのだといいますが、残念ながら大病した時の病院からの請求書を見たことがないのだと思います。

アキレス腱を切って入院するだけなら、確かに医療保険は不要かもしれません。しかし、ガン、脳卒中など長期にわたって治療する病気の場合、医療保険がなければ家計の貯蓄が勢いよく減っていく恐怖を味わうことになります。

日本の公的医療保険はかなり手厚いけれど

日本の公的医療保険は、世界的に見てもかなり手厚い制度です。

入院や手術の自己負担は基本的に3割ですが、それでも金額が大きくなりすぎないように「高額療養費制度」という上限が設けられています。

一般的な収入の人(月収28万〜50万円くらい)であれば、1ヶ月の医療費の自己負担は8〜9万円程度で頭打ちになります。長く入院しても、それ以上は公的な制度がカバーしてくれます。これが4カ月以上継続した場合は、さらに自己負担は低くなります。

ただし、これは医療費のみです。

差額ベッド代(個室代)、食事代、パジャマ代やおむつ代などの雑費といった、高額療養費制度の対象にならない費用が、入院が続くかぎり積み重なっていきます。退院後も、通院が必要な病気もあります。リハビリが必要な病気もあります。その間は当然仕事ができず、収入が無くなることもあるでしょう。

この具体的な内訳と金額は、この記事に書いています。

高額療養費制度があるから医療保険は要らない、と主張するのは、少し無知を晒しているのと同じかもしれませんね。

「貯蓄から払える」は本当にそうですか?

貯蓄があれば医療保険は不要、という人もいます。

でもそれはいくらの貯蓄のことを言っているのでしょうか。病院からの請求書の30万円だけであれば、確かに貯蓄から払えるかもしれません。

しかし、脳卒中のように入院が6か月に及び、請求額が200万円をこえた場合、どうでしょうか。1,000万円の貯蓄から300万円が無くなり、さらに収入が減っているとしたら?

200万円というのは、高額療養費制度を適用したあとの実質の負担です。

老後のため、子どもの教育のためにと運用してきた資産が目減りすることへの不安は、これまで払ってきた保険料の何倍も重く感じるはずです。

目的のある貯えからお金が減っていくことを想像してみてください。

保険の役割のひとつは、こうした「貯蓄が目に見えて減る恐怖」を、毎月の小さな保険料に置き換えてれることです。

机上の計算だけで見れば保険料を払うほうが損をしているように見えても、貯蓄が減り続けていく不安から逃れられるという安心感は、想像以上に大きいのです。

がんの治療は通院が主体

医療保険と似た保険で、がん保険があります。

これも医療保険の一種ですが、少し考え方が違います。医療保険は入院治療を想定した保険であるのに対し、がん保険は通院や高額な治療を想定した特殊な保険です。

今のがん治療は、入院よりも通院での抗がん剤治療が中心になってきています。入院日数がさほど多くないため、通院治療に対する保障が必要になります。

また、通院のための交通費や、仕事を休んだことによる収入の減少、自由診療や先進医療の費用は、公的な制度ではカバーされません。

がん保険が役に立つのは、こうした公的な制度のすき間を埋めてくれるところです。

がん治療は、長期にわたります。抗がん剤の副作用で体調は優れず、仕事をするのは難しくなります。お金がどんどん出ていき、貯蓄が減っていく恐怖をがん保険が和らげてくれます。

医療保険は不要と言う保険営業マンに注意

ユーチューバーならまだしも、一部の保険営業マンすら、医療保険は要らないと主張する人たちがいます。

これは残念ながら、医療保険に掛けるお金を自分が売りたい保険に使わせたいという裏事情があるのです。

「医療保険は要らない、保険は変額保険だけにして、かけ金を運用しましょう」という勧誘を受けたことがある人もいるのではないでしょうか。

かなり無理のある強引な勧誘です。お客さまが大病で入院したとき、どのような対応をするつもりなのか、筆者は疑問に思います。

変額保険は医療保険の代わりにはなりません。

保険の基本的な入り方は、「医療保険」「がん保険」「収入保障保険(死亡保険)」の3つをまず掛け捨てで加入することです。そのうえで、家計の余裕を見て、老後資金のために変額保険や外貨建て保険などの積み立て型の保険を検討するという順番がいいでしょう。

基本となる保険を飛ばして、積み立て型保険だけを勧めてくる保険営業マンの理屈は、「医療保険は不要」となりがちです。注意しましょう。

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代表社員 長岡理知

住宅専門FP・RAG型AIエージェント「Tally」シリーズの開発者。プロダクトエンジニア。インディーハッカー。

2005年にプルデンシャル生命へ入社。2009年から2011年まで大手ハウスメーカー専属FPとして活動し、2011年以降は数多くのハウスメーカーと提携。2020年に保険会社を退職し、長岡FP事務所を開業しました。

住宅専門FPとして約20年にわたり、累計5,200世帯を超える住宅購入相談を担当。ハウスメーカー選び、住宅ローン選び、ライフプランニング、生命保険の見直しを専門としています。

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