部活の遠征バスが「白バス行為」だったら、保険はどうなるのか

新潟市・北越高校の部活動の遠征バスで「白バス行為」と呼ばれる違法な運送形態が行われ、大事故を起こしたという報道がありました。

報道を見ると、何らかの理由から、貸切バスではなくレンタカーを借りて、無関係の人間を運転手としてアルバイトさせていたという背景が読み解けます。

当然ながら、様々な観点から違法行為です。

問題は事故を起こした時のこと。

万が一事故が起きたとき、本来は適用されるはずの保険が一切使えなくなる可能性があるのです。

お子さんを乗せたバスで何かあったとき、何の補償もない、または命の値段に釣り合った賠償額を誰からも払ってもらえない、その現実を分かりやすく解説します。

「白バス行為」とは何か

貸切バスとして旅客を有償で運ぶには、国土交通省の許可と第二種運転免許が必要です。

これを持たない者が、レンタカーなどに運転手を付けて実質的に有償運送を行うことを「白バス行為」と呼び、道路運送法違反にあたります。

報道を見ると、部活側は「バス会社に正規の料金で依頼した」と主張しています。これを信じるなら、バス会社が何らかの目的で、レンタカーと外部の運転手を手配して運送業務を行っていた、ということになります。

運送業務のプロであるバス会社が、自社でバスと運転手を用意できるにもかかわらず、本当にそのような違法な運送の提案をしたのかは、個人的には疑問が残ります・・・。

実際には、高校が過去1年間に27件のレンタカーの契約をしていたこと、レンタカー名目の請求書をその都度受け取っていたこと、法律上バス事業者に交付義務がある「運送引受書」を高校が持っていなかったこと、などが発覚しています。バス会社は「高校側から費用を安く済ませるようにレンタカーと運転手の手配を依頼された」と主張しています。正直なところ、学校側の「知らなかった」という主張には無理があるように見えます。

白バス行為になぜ至ったのかは今後の捜査の結果を待つしかありませんが、結果として違法行為が常態化していたのは否定できません。

部活の遠征バスで事故が起きたとき、保険は使えるか

白バス行為を横に置くとして、本来、遠征バスで事故が起きた時、使える保険はあるのでしょうか。

事故の時に使える保険は以下のものになります。

【自賠責保険】

搭乗者を含む「他人」の死傷を補償します。

死亡の場合の上限は3,000万円、後遺障害の場合は最重度(1級)で最大4,000万円です。

白バス行為であっても、自賠責は強制保険のため支払われます。

自賠責保険がかかっていない車は原則的にありません。車検が残っているなら自賠責保険に入っています。

【人身傷害補償保険】

事故を起こした車の、搭乗者のケガや死亡を補償する保険(特約)です。

一般的には一人につき3,000万円~7,000万円程度の保障を付けて契約していますが、レンタカーの場合、この特約が付いていないことがほとんどです。

【搭乗者傷害保険】

同乗者の死傷を定額で補償します。

こちらも同様に、レンタカーには付帯されていない可能性があります。

【学校がかける旅行傷害保険】

万が一のときにそなえ、学校が遠征中の事故に対して備える保険です。

かけ金は非常に安いものの、遠征の都度手続きの手間が必要です。

今回の事件では、この保険があれば賠償額を支払える可能性があります。

しかし、レンタカーでの運送が常態化していた学校では、旅行傷害保険に入って備える意識は限りなくゼロでしょう。

白バス行為では自動車保険は使えない

レンタカーの契約には通常「営業目的での使用禁止」という条件があります。

有償で旅客を運ぶ目的で使用した場合、本来は補償対象である対人賠償保険も含め、保険会社が任意保険の支払いそのものを拒否されます。

そうなると、補償は自賠責と学校加入の旅行傷害保険のみになります。

死亡事故となった場合、裁判所が1億円超の損害を認定することが一般的です。自賠責保険だけでは賠償できず、旅行傷害保険がなければ、被害者が賠償を受けることは難しくなります。

もし、重い後遺障害を負って生き続けた場合、必要な補償額はさらに大きくなります。

脊髄損傷や高次脳機能障害などで介護が必要な状態になった場合、裁判所が認定する損害額は1億円をはるかに超えます。治療費・リハビリ費用・将来の介護費用・逸失利益(本来得られたはずの生涯収入)を合算すると、2億〜3億円に達するケースも珍しくありません。

自賠責の後遺障害補償も最重度で4,000万円が上限であり、到底足りません。

正規の貸切バスだったら?

国土交通省は貸切バス事業者に対し、事業許可の条件として対人賠償無制限の任意保険加入を義務付けています。

さらに事業用の自動車保険では、人身傷害補償を無制限で付帯することができます。

正規の貸切バス事業者が自社のバスで運行していれば、搭乗者への補償も含めて1億円、あるいは2億〜3億円規模の損害認定にも対応できる保険の備えが成立します。

白バス行為は保険が効かない、という知識がバス会社側にも欠けていたと思われます。本来の貸し切りバスなら、事故の時に十分な賠償ができたはずです。

事故のあとで賠償をするために

【大前提】白バス行為は絶対にあってはならない

正規の貸切バス事業者に依頼し、書面(運送引受書)を必ず取り交わすこと。これがすべての出発点です。費用を節約しようとした結果、補償がほぼゼロの状態で子供を乗せることになります。

学校や部活の遠征でバスを使う際、「どの会社に依頼しているか」「運送引受書が発行されているか」を保護者として確認してください。

【バス会社が備えるべき保険】人身傷害補償保険を無制限に

正規の貸切バス事業者であれば、事業用の自動車保険に人身傷害補償保険を無制限で付帯することができます。

【学校が備えるべき保険】旅行傷害保険

本来であれば、移動中の事故以外も補償されるため、必須の保険です。手間がかかりますが安価で加入できます。

【保護者が自衛として備えるべき保険】人身傷害補償保険

バス会社側の保険が機能しない最悪の事態に備え、保護者自身の自動車保険を使うことができます。

自動車保険の人身傷害補償保険には「家族を含めて、他の車に搭乗中の事故」も補償されるように契約を設定できます。

部活の遠征バスは必ず貸し切りバスで

保護者のかたは、お子さんが乗る遠征バスが正規の貸切バスであるかどうかを、学校に都度確認してください。

白バス行為や、保護者が運転する車に乗合するなどの行為があったら、遠征はやめてください。白バス行為が常態化しているようであれば、部活を辞めさせる決断も必要です。

学校側が、「遠征は貸し切りバスを使う」「旅行傷害保険にも加入している」「契約内容を確認している」ことが重要です。

そもそも部活はお金がかかるもの。運営費を安くしたい学校の気持ちも理解できますが、部活のために命を落として賠償すらないのは、理不尽すぎます。万が一の時のために、遠征には諸々の出費が必要なのだということは、保護者も理解すべき点でしょう。

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長岡FP事務所代表社員

長岡FP事務所合同会社
代表社員 長岡理知

住宅専門FP・RAG型AIエージェント「Tally」シリーズの開発者。プロダクトエンジニア。インディーハッカー。

2005年にプルデンシャル生命へ入社。2009年から2011年まで大手ハウスメーカー専属FPとして活動し、2011年以降は数多くのハウスメーカーと提携。2020年に保険会社を退職し、長岡FP事務所を開業しました。

住宅専門FPとして約20年にわたり、累計5,200世帯を超える住宅購入相談を担当。ハウスメーカー選び、住宅ローン選び、ライフプランニング、生命保険の見直しを専門としています。

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