値上げの謝罪で広告を作るというマーケティング手法
近年、定番商品が10円値上げする際に、企業が役員総出で頭を下げたり、SNSで自虐的なお詫びを発信したりする光景が定着しています。
SNSなどでは、それを「誠実だ」「健気だ」と美談にするひとが非常に大勢います。
中には「頑張れ」「もっと値上げしていい」などと、その値上げを応援する消費者まで現れるので驚きます。しかも自分はその商品を買ったことがないし、これからも買う予定もないのに、です。
まっとうな消費者は、これに対して一歩引いた視点を持つ必要があります。
マーケターの術中にはまっている自覚はありますか?
値上げは本来「経営に困っているから」行うものではありません。商品のマーケティングや競合商品とのバランスなど、複合的な要素を検討して行われるものです。会社がつぶれそうだから10円値上げするというものでは絶対にないし、10円値上げしたらといって従業員の労働環境が改善されるというわけでもありません。
しかし、この値上げを消費者の好感度に繋げようとする、狡猾な宣伝だとするとどう思うでしょうか。
これが「謝罪マーケティング」というもので、いま大流行しています。
消費者の「お気持ち」は操作されている
SNS全盛の時代、お気持ちを操作されてしまう消費者が非常に増えたように思います。
たとえば、
「あの強面のヒール役プロレスラーは実はスイーツが好物」
「あの傲慢に見える芸能人が密かに人助けをしていた」
「あるハリウッドスターが飾らない生活をしている」
といった裏話やギャップによる美化に心が動きやすい人は、ビジネスの場において確実に騙される側にいます。業者の養分なのです。
SNSでお金を稼ぐ人達がターゲットにするのは、共感によって感情を操作されやすい人達です。
こうした演出に騙されてしまう背景には、SNSで全盛を迎えている「共感マーケティング」があります。理屈ではない、単なる印象論なのですが、この影響力は政治の世界にも波及しています。
いわゆるポピュリズムといわれるもので、政治家の政策や業績よりも、「お人柄」とか「マクドナルドが好き」「秘書に叱られる普通のおっさん」などに好感を持たせるのです。そんな手法を見たことがないと思うのあれば、すでに騙されています。
「プーチンは犬好きだからいい人」
「トランプは弾けたおもろいおっさん」
「〇〇は親日国家」
など、あまりにも幼稚な目線をSNSで発信してしまう人を見たことがあるでしょう。
その結果どうなるのかは、歴史を学べば理解できます。
実際、その裏返しとして「ゼレンスキーはなんとなく信用出来なさそう」と印象論を平気で口にする人さえいます。ウクライナがどこにあるかすら知らない人がです。
「共感」を一種の病であると指摘する研究者もいます。決して健康的な感情ではないのだと。
話を値上げに戻します。
市場における消費者と企業の健全な関係は、提供される「価値」と支払う「対価」の冷徹な等価交換です。そこに共感を持ち込む心理は、ひとたびベクトルが反転すれば、気に入らない対象を集団で徹底的に叩く「リンチの心理」と表裏一体、地続きです。
誰かを叩いて、誰かを美化する。SNSでそのヒステリーに参加している自覚がある人もいるでしょう。
見ず知らずの企業の値上げ応援団になっている人は、いつか誰かを叩く側になりかねません。すでに誰かをネットリンチしたことがあるのでは?
イメージとのギャップにストーリー性を与えられ、勝手に人物や企業を全肯定して「応援団」になってしまうひとたち。
これはマーケターにとって「最も簡単に操作でき、最もお金になる格好の養分」の典型例なのです。
賢い消費者になるために
住宅業界でも、この手法を駆使する企業も存在します。
売っているものは単なるローコスト住宅。しかし共感マーケティングでお化粧をして、好感度の高い工務店に見せるという手法です。
スタッフ同士をニックネームで呼ぶ、社員全員でダンスをする、お坊さんじみた精神論を動画で語る、などなど。たったこれだけで、プロダクトとしてのアラが隠れてしまうのです。
気づいたら安物を買わされていることになりかねません。その片鱗が、共感マーケティングに騙されやすいかどうかで垣間見えるのです。
共感マーケティングに気をつけるために
現代を生き抜く消費者として、こんなリテラシーを持ちましょう。
「利益ミックス」の全体像を見る
企業は単一の商品だけで生きているわけではありません。薄利の看板商品で注目を集め、ハイエンド商品や派生ビジネスなどの「高利益率セグメント」でしっかり回収する収益構造を組んでいます。1つの商品の10円の価格差で経営が傾くわけではありません。
「無料のPR効果」を見抜く
大げさに謝る姿がメディアやSNSで拡散されれば、企業は数千万円規模の広告費をかける以上の宣伝効果を「タダ」で手に入れます。「申し訳ない」というポーズを計算高くブランディングに利用しているのが、謝罪マーケティングの本質です。
値上げは本来、消費者にとっては不都合なことのはず。それを応援までしてしまうのはもはや病的といえます。
これは無料で宣伝しようとしているのでは?という目線を持ちましょう。
浪花節に訴えてきたら離れる
値上げをあえて浪花節のストーリーにして、消費者の「可哀想」「応援したい」「賞賛」というエモーションをハックしようとする手法に、敏感になりましょう。
賢い消費者であるために
企業やマーケターが仕掛けるエモさに騙され、都合よく思考をコントロールされるのは悔しいはずです。
私たちが目指すべきは、謝罪や共感、ギャップの演出に一喜一憂して消費される「操作されやすい消費者」ではなく、ビジネスの全体像や市場の構造を冷静に見極める「自立した消費者」であることです。
仕掛けられたパフォーマンスをエンターテインメントとして冷ややかに眺めるくらいの、健全な冷徹さを持っていたいものです。
特に家のような高額な買い物では気をつけてください。
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