以前、このブログで「新NISAと変額保険を比べること自体がナンセンスだ」という記事を書きました。
両者は目的の違う別物だ、という話です。大変な評判をいただきました。
今回はその続編として、実際の数字と制度を見ていきます。
変額保険を「自分のため」ではなく「子と孫の世代まで運用をつなぐ仕組み」として使ったとき、実際の解約返戻金がどう育ち、出口でどんな課税が待っているのか。そして、それがNISAとどう”出口の質”で違うのか。実際の運用実績例表をもとに解説します。
「いつ・誰が受け取るか」で、変額保険の価値はまるで変わる
変額保険の話をするとき、多くの解説は「自分が老後に解約して受け取る」という一つの出口しか想定していません。
その出口だけで見れば、運用コストや課税の面で、低コストのインデックスファンドをNISAで持つほうが効率的な場面は確かにあります。
しかし、変額保険には「自分では受け取らない」という出口があります。
子を被保険者にして契約し、運用を次の世代へ引き継いでいく――この使い方をしたとき、商品の意味は根本から変わります。
今回は、ある終身タイプの変額保険(10年で払い込みを終える短期払)の実際の運用実績例表を使って、その姿を具体的に追っていきます。
モデルケース:父が契約し、子を被保険者にする場合
今回のモデルは、次のような家族です。
ポイントは、被保険者を「子」にしていることです。ここがポイントです。父親本人を被保険者としません。
父はあくまで「最初の10年間、保険料を払う人」。10年で払い込みを終えたあとは、誰も追加でお金を出さなくても、特別勘定の中で運用だけが続いていく仕組みになります。
600万円が、時間とともにどう育つか
では、父が10年で払い込んだ累計600万円が、その後どう育っていくのか。運用実績例表の解約返戻金額(年6.0%・3.0%・0.0%の仮定)を抜き出します。
| 経過年数 | 被保険者 (子)の年齢 | 払込累計 | 年6.0% | 年3.0% | 年0.0% |
|---|---|---|---|---|---|
| 10年 | 25歳 | 600万 | 686万 | 587万 | 504万 |
| 20年 | 35歳 | 600万 | 1,207万 | 770万 | 487万 |
| 35年 | 50歳 | 600万 | 2,852万 | 1,168万 | 461万 |
| 45年 | 60歳 | 600万 | 5,084万 | 1,549万 | 442万 |
| 55年 | 70歳 | 600万 | 9,082万 | 2,062万 | 418万 |
| 70年 | 85歳 | 600万 | 21,722万 | 3,179万 | 311万 |
※解約返戻金額(万円)。各経過年数末日の数値。運用実績により変動します。
年6.0%で運用が続いた場合、払込が終わって35年後(子50歳)には約2,852万円、55年後(子70歳)には約9,082万円。70年後にはなんと、2億円を超える計算です。
たった600万円の元手が、誰も追加で払わないまま、これだけ膨らむ可能性があるということです。
複利は、額の大きさよりも運用できる期間の長さに強く反応します。だからこそ、運用の起点をできるだけ早くし、被保険者を年齢の若い子供に設定することで運用期間を延ばすことができます。
ただし、増えるとは限らない
この表のいちばん大事な列は、実は年6%ではなく年0.0%の列です。運用が振るわなければ、600万円払い込んでも、解約返戻金は払込額を下回り続けます(年0%の前提で生涯おおむね500万円前後)。
さらに払込完了前の早い時期は、好調な年6%でも元本割れの局面があります(6年経過時点で返戻率98.8%)。
変額保険は預金ではありません。運用がうまくいかなければ増えない、元本割れもあり得る商品です。
この一点を理解しないまま「将来2億円になるかも」という上振れだけを見て契約するのは、順番が逆です。下振れを受け止められる資金、つまり今すぐ使わないお金を投じるのが基本です。
名義変更:子の世代へ「運用ごと」引き継ぐ
父が10年で払い終えたあと、契約者を父から子へ名義変更することができます。
ここで多くの方が心配するのが「親から子に移したら贈与税がかかるのでは?」という点です。結論から言うと、名義変更そのものに贈与税はかかりません。
国税庁の質疑応答事例でも、保険料を負担していない契約者の地位は、それ自体としては課税上の財産とは扱われず、契約者を変更しただけでは贈与税は生じない、と明確にされています。
父が払ったという事実は記録として引き継がれ、課税のタイミングは「実際にお金を受け取るとき」まで先送りされます。
名義変更の直後に子が解約して解約返戻金を受け取ると、父が負担した保険料部分が「父からの贈与」とみなされ、贈与税の対象になります。贈与税は相続税や一時所得より負担が重くなりがちです。
つまりこのスキームは、「名義を移して、すぐ現金化する」ためのものではありません。移したあとも解約せず、運用を継続したまま次の出口(保険事故=死亡保険金)まで保有し続けることが前提になります。現金化しなければ課税されないという、制度上の特徴を利用しているのです。
出口:孫が受け取る。受け取り方で課税が変わる
最終的な出口は、被保険者である子に万一のことがあったとき、死亡保険金を孫が受け取るという形です。
父が600万円を払い、子供が契約を引き継ぎ運用を続け、子供の死後に孫が死亡保険金2億円を受け取る・・・。
一つの契約が三世代をまたいで人生の物語になります。
このとき孫が受け取る莫大なお金にどんな税金がかかるかは、「契約者・被保険者・受取人を誰にしているか」で変わります。
ここは設計の肝であり、組み方を一つ間違えると税負担が大きく変わる部分です。
| 契約者 (保険料負担) | 被保険者 | 受取人 | かかる税金 |
|---|---|---|---|
| 子 | 子 | 孫 | 相続税 (みなし相続財産) |
| 孫 | 子(親) | 孫 | 所得税 (一時所得) |
| 父 | 子 | 孫 | 贈与税 |
たとえば名義変更で契約者=子・被保険者=子・受取人=孫となっていれば、子の死亡で支払われる保険金は「みなし相続財産」として相続税の対象です。
一方、孫が成人後に契約者の立場を引き継ぎ、契約者=孫・受取人=孫の形になっていれば、受け取りは一時所得として所得税の対象になります。
一時所得になる場合の計算式
受け取りが一時所得になるケースでは、税金の計算に三段階の緩和が用意されています。
まず受取額から払い込んだ保険料の総額を差し引き、さらに50万円の特別控除を引き、その残りを半分にした額だけが課税対象になります。
年金形式で受け取る場合は雑所得となり、計算方法が変わります。
先ほどの運用実績例表(年6.0%・払込累計600万円)の数値を当てはめると、課税対象になる金額は次のように計算できます。たとえば子が50歳のとき(経過35年・解約返戻金2,852万円)に一時所得として受け取った場合――
このように、運用で大きく増えていても、課税されるのは増えた部分のさらに半分。受け取るタイミングによって課税対象額は次のように変わります。
| 受取時期 | 受取額 (年6%) | 払込 | 一時所得 (-50万後) | 課税対象 (×½) |
|---|---|---|---|---|
| 35年・子50歳 | 2,852万 | 600万 | 2,202万 | 1,101万 |
| 45年・子60歳 | 5,084万 | 600万 | 4,434万 | 2,217万 |
| 55年・子70歳 | 9,082万 | 600万 | 8,432万 | 4,216万 |
※一時金で受け取り一時所得となる場合の課税対象額(万円)。実際の税額は、この課税対象額を他の所得と合算した総合課税で決まります。
一方、相続税ルート(契約者=被保険者=子、受取人=孫)になる場合は、この一時所得の計算は使いません。
死亡保険金が「みなし相続財産」として他の相続財産と合算され、相続財産の合計が基礎控除内であればそもそも課税されない、という形になります。どちらのルートが有利かは、ご家族の資産規模や相続人の構成によって変わります。
相続税がかからない家庭ほど、差が際立つ
ここで見落とされがちなのが、相続税がそもそもかからない世帯の存在です。
相続財産が基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)に収まる家庭では、相続税はゼロ。生命保険の「500万円×法定相続人」という非課税枠の出番すらありません。
このような家庭で、孫が相続税ルートで死亡保険金を受け取れば、税負担なしで、運用で大きく育った資産がそのまま孫に届きます。
富裕層の相続対策として語られがちな変額保険ですが、実はごく普通の、相続税のかからない家庭でこそ、その受け渡しの良さがはっきり出る、というのが現場での実感です。
NISAとの違いは「損得」ではなく「出口」にある
では、同じ600万円を父がNISAで運用し、子や孫へ渡す場合と比べてどうか。
ここで「どちらが得か」を競わせるつもりはありません。両者は出口の性質がまったく違うからです。違いは次の3点に集約されます。
資産は相続人の課税口座へ移り、その後の値上がりには約20%の課税。孫へ渡すには相続を重ねるか贈与の壁を越える必要があります。
出口は「いつか売る」――売るタイミングを自分で(あるいは相続人が)市場を見て判断しなければなりません。
出口は「子の死亡」という保険事故。タイミングを市場に委ねず、しかも死亡保険金には最低保証(約992万円)があります。
受取人に指定すれば、孫へ直接・確実に届きます。
整理すると、NISAは「自分の運用を、自分の代で完結させる」ための優れた制度です。非課税制度は非常に有利でぜひ活用すべきです。
一方この変額保険の使い方は、運用の最初の主が亡くなっても運用が死なない、出口が市場のタイミングではなく被保険者の死亡で確定する、指定した受取人に払われるという、NISAにはない構造を持っています。
非課税の適用が終了し、以後の運用は課税口座になるという部分です。“運用成果を世代で継ぐ”という出口は設計できないのがNISAです。
結論:「出口」によって使い分けましょう
以前の記事で「NISAと変額保険を比べるのはナンセンスだ」と書いた理由が、数字で見るとはっきりします。
同じ変額保険でも、自分で解約して使えば運用効率の勝負になり、NISAが有利です。
しかし、子を被保険者にして孫の代まで運用を継ぐ方法を選べば、NISAには不可能な運用期間の長さが手に入ります。
NISAと変額保険は、それぞれの出口とそのお金の目的で使い分けましょう
出口があいまいのまま「NISAか変額保険か」を論じても、答えは出ません。どの出口が、あなたの家族にとって意味を持つのか。そこを一緒に考えていくのが長岡FP事務所です。
なお、こうした10年払いの終身タイプの変額保険は、私が確認している範囲ではごく一部の保険会社しか扱っていません。
採用されている特別勘定には、世界株式ではベイリー・ギフォード、米国株式ではフィデリティといった、機関投資家向けの運用が用いられているものもあります。具体的な商品や、ご家族に合った契約者・被保険者・受取人の組み方については、長岡FP事務所にご相談ください。
変額保険のお問い合わせはこちら


























