住信SBIの「元金50%後払い」の住宅ローン。楽になった分を投資に回すのは絶対にNG

住信SBIネット銀行が2026年6月から、元金の50%を返済期間の満了時に一括で支払う、新しい住宅ローン「元金50%繰延型住宅ローン」を導入しました。

月々の支払い(元金+利息)を抑えられる代わりに、金利は通常型に0.35%の上乗せ。融資額は最大3億円、返済期間は最長35年です。

対象となるのは、東京23区・大阪市・横浜市・川崎市にある1億円以上の新築または中古マンション(完済時に築65年以内)に限られます。利用するには年収1000万円以上、借入時に18〜65歳といった条件を満たす必要があります。メガバンクやネット銀行では初の試みとされ、価格上昇が続く都市部のマンションを「返済期間中に売却する前提」で購入する人などが想定されています。

売却を前提とした住宅ローンの借入はリスクが高いのはいうまでもありません。

しかも売却で残債を払うだけでなく、余裕が生まれたお金を投資に回そうと考える人もいます。

当事務所の相談現場でも、近年のマンション価格高騰に伴い「月々の返済額を少しでも軽くしたい」「毎月の負担を減らして、その分を新NISAなどの資産運用に回したい」というご相談をいただく機会が非常に増えています。

特に都市部の高額物件を検討されている若い共働き世帯(パワーカップル)ほど、こうした「効率の良さそうな仕組み」に強い関心を示される傾向があります。

この商品は一見すると「月々が楽になる」「売却すれば完済」「浮いたお金を投資に回せる」という魅力的な文脈で語られがちです。

ただ、その理解では、本質を見誤ります。

この記事では、まずこの商品が構造的に何なのかを整理し、そのうえで「投資に回す」という発想がどこまで成立するのかを、相談現場のリアルな視点から考えます。

このローンをほめちぎる住宅ローンの専門家が一定数いますが、冷静になってください。

そもそも「残価設定ローン」ではない

ネットの感想を読むと、この商品を「残価設定ローン」と勘違いしている人が大勢います。

専門家ですらそうなので、消費者は完全に車の残価設定ローンのように考える危険があります。

月々の負担を抑え、最後にまとまった金額を支払うという外形が、似て見えるからです。

しかし、この住宅ローンの仕組みを見ると別物です。

本来の残価設定型ローンは「残価保証(買取保証)」にあります。第三者または金融機関があらかじめ将来の資産価値(残価)を保証し、満了時に借り手は「残価を払って保有する」か「物件を引き渡して債務を消す」かを選べます。つまり価格下落のリスクを借り手から切り離す仕組みです。これが残クレです。

一方、今回の住信SBIの「50%」は、将来の査定残価ではなく、当初元本の固定半額をそのまま繰り延べているだけです。

買取保証はなく、想定されているのは「借り手が自分でマンションを市場売却し、その代金で一括分を返す」という前提です。もし売却額が50%分を下回れば、その差額は自己資金で埋めることになります。

リスクは100%借り手側にあります。

実態としては、残価設定ローンというより「満期一括(バルーン)返済型ローン」のマンション版と捉えるのが正確です。

すでにある「本物の残価設定」との違い

住宅の残価設定ローンは、日本にすでに存在します。代表格はJTI(一般社団法人 移住・住みかえ支援機構)の仕組みで、楽天銀行などを通じて提供されています。両者を並べると、似て非なるものだとわかります。

  • JTI型(本来の残価設定)
    • 残価保証(買取保証)あり=価格下落リスクをJTIが引き受ける
    • 対象は認定長期優良住宅が中心(戸建て)
    • 狙いは老後の住み替え・ライフプランの柔軟性
    • 「手放せば残債は残らない」出口がある
  • 住信SBI型(今回の新商品)
    • 残価保証なし=価格リスクは借り手がフル負担
    • 対象は都市部の高額マンション(1億円以上)
    • 狙いは短中期の売却・キャッシュフロー最適化
    • 売却額が不足すれば自己資金で穴埋め

同じ「残価設定」という言葉で語られても、出口の安全装置の有無と、狙う客層がまったく逆方向を向いています。

住信SBIの住宅ローンが狙っている客層は、「高額なマンションに毎月軽い負担で住みたい」と安易に考える人達です。おそらく借りる本人や勧める側は、浮いたお金を投資に回せるというメリットも語るでしょう。それがものすごく賢いスキームに移ってしまうリスクがあります。

「キャッシュフローが楽になる」の正体

では、月々が軽くなって浮いたお金は、自由に使える「余ったお金」なのでしょうか。ここが最初のつまずきどころです。

浮いた差額は、手元に湧いてきたお金ではありません。返さずに残しておいた借金です。

元本の50%を返済期間中ずっと残すため、その分の利息は通常型より多く払い続けることになります。0.35%の上乗せ金利も、繰り延べに対する対価です。

浮いたのではなく、返さずに残しているだけ。

つまり「キャッシュフローが楽になる」とは、家計の負担が消えたという意味ではなく、支払いのタイミングを後ろにずらしたという意味にすぎません。総額で見れば、むしろ支払う利息は増えます。

「売却を前提とした借り入れ」に潜む危険

この商品は「いつか売るから、その時の売却益(または売却代金)で後ろに回した50%を返せばいい」という、売却前提のストーリーで語られます。しかし、ここには大きな落とし穴があります。

そもそも不動産の売却は、売りたい時に、売りたい価格で必ず売れるとは限りません。

仮に10年後、15年後に家族構成の変化や転勤などで売却しようとした際、不動産市場全体が冷え込んでいたらどうなるでしょうか。

「値下がりしているから、市場が回復するまで売るのを待とう」と思っても、この商品には一括返済の期日というタイムリミット(返済期間満了)が確実に迫ってきます。焦って安値で売却せざるを得なくなれば、残った50%の借金を返すために、多額の持ち出し(自己資金)を強いられます。

さらに言えば、「売りたくても売れない」流動性リスクもあります。高額マンションの買い手は限られるため、不況期には買い手がまったく現れない期間が続くことも珍しくありません。一般的な住宅ローンであれば、そのまま住み続けるという選択肢が容易ですが、元本の半分を後ろに回しているこの商品の場合、売却という出口が塞がれた瞬間に、ライフプランが完全に崩壊してしまいます。

「売らなければ終われない」という制約を、30年超にわたって背負い続けるリスクは、決して軽いものではありません。

東京都内の昨今のマンション価格高騰は、外国の投資マネーが入っていることが主な理由です。社会情勢に変化があり投資マネーが流出を始めたら、マンション価格は下がっていきます。マンション価格はいま、バブルの様相だということを理解すべきでしょう。

投資に回す発想は成立するか

では、浮いたお金を投資に回すという発想はどうでしょうか。

たしかに理屈としては成立します。

繰り延べた50%は、要するに「住宅ローン金利+0.35%」で借り続けているお金です。変動金利なら実効1%前後でしょう。長期の株式インデックス投資で税引後4〜6%程度を狙えるなら、その差(スプレッド)はプラスで回ります。

住宅ローンは、個人が引ける中で最も金利が低く、長期で、担保付きのレバレッジです。これを投資原資として使う考え方そのものは、合理性があります。

ただし、それが成り立つのは浮いた差額を機械的に投資へ回し続ける自己管理能力がある場合だけです。

当事務所に相談に来られる方の中にも、50年返済などの超長期住宅ローンを借りて、「月々の住居費を抑えて浮いた分を投資に回すつもりだった」とおっしゃるものの、実際には生活水準がいつの間にか上がり、日々の消費や教育費、旅行代などに溶けてしまっているケースが少なくありません。

「楽になった分を投資に」は、言うのは簡単ですが、長期間にわたってその自己管理を維持し続けるのは非常に難しいというのが現場の実感です。

最大の落とし穴は「二重レバレッジ」

ここが、この商品で一番注意すべき点です。

この住宅ローンは、そもそも「マンションを売って50%を返す」前提でできています。これは言い換えれば、不動産価格への片張りのレバレッジです。

そのうえで浮いたお金を金融市場に投資すると、不動産と金融資産という、値動きの連動しやすい2つのレバレッジを、同じ1つの借金で積み増すことになります。

これは分散ではなく、リスクの掛け算です。

金利上昇や流動性ショックの局面を想像してください。

元本残高を高く保っているぶん金利の影響を受けやすく、月々の負担は増えます。

同時にマンション価格も株価も下がり、しかもバルーン(一括返済)の期限や売却のタイミングが迫ってくるという、三方向の締め付けが、同じタイミングで起こります。

平常時に成り立つ「キャリースプレッド(利ザヤ)の計算」は、こうしたストレス局面では一気に崩れます。投資のリターンは平均で語られますが、レバレッジの怖さは平均ではなく「最悪期にどれだけ耐えられるか」で決まります。

つまり、これは「平均水深が50センチだから溺れるはずがない」と思って川に入ったら、一箇所だけあった水深2メートルの深みに足を取られて沈んでしまうようなものです。

資産運用は長期間の「平均」でプラスになれば成功ですが、レバレッジをかけた借金は、たった一度でもやってくる「最悪の瞬間」で溺れたら、その時点でゲームオーバーになります。

住宅ローン控除は当てにできない層

「残高を高く保てば住宅ローン控除で有利になるのでは」という見方もあります。しかし、この商品の対象となる物件にはほぼ当てはまりません。

1億円を超える物件は、住宅ローン控除の借入限度額(省エネ基準等によって3000万〜4500万円程度)を最初から大きく超えています。

控除額は上限で頭打ちです。したがって「節税のために残高を残す」という理屈は、ここでは効きません。

投資に回す合理性は、あくまでキャリースプレッド(利ザヤ)一本で考えるべきです。

向く人と、向かない人

整理すると、この商品を前向きに検討できるのは、次の3つをすべて満たせる人に限られます。

  1. 浮いた差額を、毎月必ず、消費に回さず機械的に投資へ振り向ける自己管理能力がある。
  2. 売却額がバルーン(50%)を下回っても、自己資金で差額を埋められる貯金を持っている。
  3. 不動産と金融資産が同時に下落する局面でも、生活と返済を維持できる。(株価が大暴落し、マンション価格が崩壊しても、将来破綻しない家計であること)

年収1,000万円以上、1億円超の物件という利用条件がありますが、年収1,000万円では明らかに足りないでしょう。

少なくとも数千万円クラスの年収がなければ、リスクばかり目立ちます。

資産も収入もリスク許容度も十分な人にとっては、手元の流動性を最大化する選択肢として理にかなっていますが、

「月々が楽になるから」という入口だけでこれを選ぶ普通の購入者には、最も向かない商品です。

負担を軽くしたいという目先の動機を持つ人の能力と、この商品が要求する高いリスク管理能力は、全く釣り合いません。

一体どれほどの人がこの住宅ローンの本質を理解できるのだろうかと、不安になります。

計算ではなく、価値判断の問題

理屈は理解できる。しかし、

「この人が、不動産と金融の連動した重いレバレッジを背負って、長期間、自己管理を保てるのか」「万が一のストレス局面に生活が耐えられるのか」というのは、別です。

新しい住宅ローンが出るたびに、メディアやSNSでは「得か損か」だけで語られがちです。

よく理解する前に、「すごい!」などと発言してしまう住宅ローンの専門家もいます。

大切なのは、その複雑な仕組みが、ご自身の人生設計と本当のリスク許容度に合っているかをよく考えてみることです。

住宅ローンの専門家を自称する人たちは、「変動金利は当面変動しない」などと言い切っていましたが、昨今の状況局面になったとたん「予想通り上がってきました」などと平気で発言するものです。

飛びつく前に冷静に考えてみましょう。

※本記事は2026年6月時点の情報に基づいています。実際の融資条件や商品詳細は、住信SBIネット銀行の公式情報をご確認ください。

【参考・引用元】
「元金50%繰延型住宅ローン」の取扱開始について(住信SBIネット銀行 法人・プレスリリース)

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ABOUT US
長岡FP事務所代表社員
長岡FP事務所合同会社 代表社員 長岡理知。

RAG型AIエージェント「Tally」開発者。住宅専門FP。インディーハッカー。

2005年プルデンシャル生命に入社。2009年~2011年まで大手ハウスメーカー専属のFPを経験。2011年から数多くのハウスメーカーと提携。2020年に保険会社を退職し長岡FP事務所を開業。

住宅専門FPとして経験は約20年。累計相談件数は5,000世帯超です。住宅購入時の、ハウスメーカー選び、住宅ローン選び、ライフプランニング、生命保険・損害保険の見直しを専門業務としています。

当社のブログは執筆にAI(LLM)を使用していません。

20年の経験をデジタルクローンしたAIエージェント「Tally」を開発・運営。