「あなたの安全な住宅予算は1,300万円です」独立系FPが目撃した、FP相談のいびつな現実

「あなたの住宅予算は1,300万円です」

あるFPが、住宅取得を考えていた30代前半のご夫婦にそう言い切りました。FP相談という名目の面談でのことです。

1,300万円。いくら地方都市でも、土地込みでその値段で購入できる物件は皆無です。その当時、平均的な物件価格は3,500万円でした。

ご夫婦はその言葉を信じ、その予算で建てられる家を10年間探し続けています。現在は40代半ば。いまも家は建てられていません。年齢的に住宅ローンの審査は厳しくなりつつあります。それでも、ご夫婦はそのFPを信頼しています。

そのFPはカタカナ系生命保険会社の営業マンでした。

私はこれまで5,000世帯以上のご相談に対応してきました。その経験から見えてきたのは、お客様が信じているものと、業界の現実との、埋めがたい距離です。

ある夫婦の話-1,300万円以上の家を買うと自己破産する!?

このご夫婦のことを、もう少し詳しくお話しします。

30代前半の共働きのご夫婦でした。住宅取得を真剣に検討されていた折、FPを紹介されたのです。当時は、FPという資格がめずらしく、信頼度が非常に高かった事情があります。そのFPは、保険商品の販売を収益源とする保険営業マンでした。

そのFPは高級車に乗って、夫婦の自宅前に登場しました。夫婦は驚きと羨望を覚えました。

FPはヒアリングを通してキャッシュフロー表を作成していきます。今後の家計の様子が時系列で見える化された、家計の未来予想図です。

FPは混迷する日本経済の中で、自助努力で老後資金を貯める必要性を強く説きました。「老後には6,000万円用意しないと生きて行けない時代になる」と。

そのための資産運用として「変額保険」に月10万円払い込むといいのだと説明します。その変額保険のあるファンドで運用すると、「年15%」で増えるというニュアンスのことを言うのです。

「年15%?すごい!」と、夫婦は夢中になります。住宅を買うことなどそっちのけです。

当然、月10万円の保険料を引いた後の家計から、住宅予算が逆算されます。その結果、「あなたの予算は1300万円です」という結論が出ました。

「家に贅沢するよりも、老後の貯蓄が大切よね?」と夫婦は感じたようです。

夫婦は1,300万円の予算で建てられる家を探し始めました。

しかし、1300万円という予算で、住宅性能と立地を両立できる家はほとんどありません。条件を満たす物件が見つからないまま、10年が過ぎました。ご夫婦は年齢を重ね、住宅ローンの借入可能年数は1年ごとに削られていきます。

お子様ももうすぐ18歳で家を出て進学します。お子様はもう新しい家に住むことはないでしょう。

毎月10万円のかけ金は決して楽ではありません。マンションの家賃を払い、教育費を払い、生活をし、普通預金はあまり多くありません。先日、自動車を買いましたが現金一括では変えず、年3%のオートローンを借りました。変額保険を優先するために医療保険も解約してしまったので、先日入院した時もどこからも保険がおりませんでした。

何かがおかしいと思いつつも、1,300万円の新築物件をさがしている日々です。

「1,300万円以上の物件は、自己破産するとFPが言うので怖くって」そう夫婦は言うのですが・・・

キャッシュフロー表は、目の前で操作できる

このご夫婦の話の核心は、「1,300万円」という数字がどう作られたか、にあります。

FPがお客様に見せるキャッシュフロー表は、客観的な計算結果のように見えます。

専用ソフトの画面に数字が並び、グラフが描かれ、65歳時の貯蓄残高が示される。お客様の多くは、これを学校で習った算数のように受け取ります。入力が決まれば、出力は一つに決まる、と。

しかし実態は逆です。入力の数字はFPが操作でき、当然結果も自由に操作できるのです。

もうお気づきのことでしょう。その結果はFPが何を売りたいかによって、操作されます。

前提を変えれば、結論は何にでもなる

月10万円の変額保険を売りたい時、FPは月10万円を「保険料」の欄に入れて、その前提でキャッシュフロー表を作成します。住宅予算は自動的に圧迫されます。

FPが顧問契約を取りたい時、将来の不確実性を強調する前提を入れて、「定期的な見直しが必要に見える」キャッシュフロー表を作ります。

投資信託を売りたい時、運用利回りの前提を強気に設定して、「投資しないと老後資金が足りない」と見える表を作ります。

これらの数字は、すべてFPが手元で操作できるのです。前提を変えるだけで、結論は何にでもなります。同じご夫婦から、住宅予算1,300万円も、5,000万円も導けます。

FPは、自分が売りたいものに合わせて、キャッシュフロー表をいくらでも捻じ曲げることが可能です。これは特別な技術ではなく、誰でもできる単純な操作です。そして、お客様にはその操作が見えません。

もちろん、多くのFPは職業倫理を高く持っているため、自分が売りたい生命保険のかけ金を優先して住宅予算を捻じ曲げるようなことはしません。悪意がある人は決して多くはありません。しかし・・・

悪意ではなく、構造の問題

FPの多くは保険営業マンです。保険営業マンの報酬体系は、完全歩合制。自分の売上からの手数料で生計を立てています。

そうなると、いくら誠実なFPであっても、自分の取扱商品に有利となる計算をしたくなります。なぜなら、その前提でこそ、お客様が理解しやすくなるのです。

たとえばこうです。

・安い住宅は、ローン返済が楽だがメンテナンス費用が高いし寿命も短いので、費用をかけてしっかりした家を買いましょう。

この話は正論ですが、実は非常に不安を感じやすいのです。

一方で、

・家の予算は安くして、投資にお金を回しましょう。家は清潔に生活できれば十分。老後にお金がないのは悲惨ですよ。

こちらはとても響きます。

FPにとってはこちらは好都合です。なぜなら変額保険や投資信託といった、資産運用ができる金融商品が売れるからです。

ローコスト住宅の寿命もメンテナンス費用も全て無視されます。せいぜい「修繕費積み立て費」をほんの少し計上してみせるだけ。この理屈では太陽光発電設備は絶対、ということになります。光熱費が節約できるという理屈になるからです。その設備のメンテナンスなど無視なので、太陽光発電があった方が有利に見えます。

これには、FPの無知に加えて、相談者の心理的安全というバイアスが合致して、とんでもない結論を導き出す結果となります。

お客様は、自分が見ている数字が誰によってどう作られたかを知らされないまま、人生の重要な決定を委ねていることになるのです。

月10万円の変額保険・年利15%という説明

ご夫婦のお話に戻ります。

妻が信じていた「年利15%で増える」という説明には、業界の中でよく知られた話法があります。

「設定来の運用利率」という数字

実際には、これは将来の利回りの予測でも、保証でもありません。「設定来の運用利率」と呼ばれる数字です。その商品が設定された年からの累積上昇率を、年率換算したものです。市況の良い時期を含めば、簡単に二桁になります。

変額保険の勧誘の場では、「運用レポート」と書かれた保険会社が発行する書類を見せながら、この数字が熱く語られます。

設定来の運用利率は、過去の統計に過ぎません。現時点から将来の利回りを保証するものではありません。設定来の利率が高くても、その過程でマイナス50%を経験するような激しい値動きをしている場合があります。変額保険は長期で継続することが前提のため、運用実績の数字だけでなく、標準偏差(リスク)やシャープレシオを確認して、リスクに対して効率的にリターンが得られているかをチェックすべきなのです。

また運用にかかる手数料はNISAなどよりもはるかに高く、非課税ではないという特徴もあります。一方で、NISAにはない死亡保障という機能がついて、この使い方によってはNISAにはない魅力があるのも確かです。

しかし、勧誘の場で、その文脈が十分に説明されることは少ないのです。お客様は「年利15%で増える可能性が高い資産運用商品」として誤って記憶します。

そして、その期待値を前提に、家計設計が組まれていきます。

論理は、信仰に勝てない

冒頭のご夫婦の現状に驚いた住宅営業マンが長岡FP事務所を紹介し、筆者が会ってきました。ちょっと耳を疑う状態だったので、今後の立て直しについて論理的にアドバイスを差し上げたところ・・・

後日、住宅営業マンを通じて、ご夫婦の反応が伝わってきました。

「新築住宅を買う方向に誘導している」「私たちを自己破産させようとする危険なFPだ」

非常に驚きました。

ご夫婦の中で、私はそう位置付けられていました。

おそらく、保険を販売したFPがそう説明したのでしょう。変額保険の解約を阻止するためです。私自身は、家を売ってもいませんし、住宅会社から紹介料を受け取る契約もしていません。にもかかわらず、「住宅購入に誘導するFP」というラベルが、ご夫婦の中で確定していました。

夫婦にとって、家を買うという欲求よりも、老後資金を貯めなければ自己破産するという強迫的な観念の方が強いのかもしれません。

なぜ論理は届かなかったのか

衝撃を受けながら、考えました。なぜ論理が届かなかったのか。なぜ正確な情報が、嘘として処理されたのか。

そこで気付いたのは、ご夫婦はもう、自分の頭で判断をしていなかった、ということです。FPを信仰していたのです。

「年利15%で増える」というバイアスのかかった数字を信じている時点で、それは計算による判断ではありません。信頼するFPへの信仰です。

だから、外から論理を持ち込んでも届かない。論理で入った情報は、信仰を脅かす攻撃として処理されます。「他のFPは危険だ」というのは、信仰の防衛反応です。

信仰がどう作られるか

お客様は、キャッシュフロー表の数字の妥当性を判断できません。保険商品の機能の違いも、運用利回りの現実的な水準も、ご存じない。だから、心地よく響く主張を信じやすい。

「家の予算は安くしましょう」と断定された方が、「予算をかけて長持ちする家を買うべき」と言われるより、安心するのです。自分のお金を守ってくれる人に見えるからです。一度この信頼関係ができると、それは判断の対象ではなく、信仰になります。

保険営業マン(FP)が自分の商品を売りたいがためのバイアスのかかった論理を、絶対的な神の言葉のように信じてしまうと、相談者の人生は確実に狂っていきます。

それは、FPの言葉ではなく、営業マンの言葉に過ぎないのです。

AIは、売りたいものを持たない

FPとしての経験が20年の筆者は、常に考えていることがあります。

判断の材料となるキャッシュフロー表は、人間のFPが作ってはいけない。

ということです。

極めて客観的に作られたキャッシュフロー表をもとにして、どう判断するかを話し合うのがFPの役割だろうと考えています。

売りたいものを持ったFPがキャッシュフロー表を作るのは、言い方は悪いですが、マッチポンプなのです。つまり、消防士が放火して火を消しに行くのと同じことです。

ならば、計算と前提組みのプロセスを、売りたいものを持たない存在に渡せばいい。

そう考えて利用をはじめたのが、LLMでした。

AIに何ができるか

AIは、保険を売りません。住宅ローンも、投資信託も、顧問契約も売りません。売る動機がないので、前提を恣意的に動かす理由がありません。

同じご家計の数字を入れた時、AIは複数のシナリオを並列で出すことができます。

変額保険を月10万円続けた場合のキャッシュフロー。解約した場合のキャッシュフロー。住宅予算を優先した場合。教育費を優先した場合。老後資金を優先した場合。それぞれのシナリオで、30年後の貯蓄残高がどうなるか、住宅ローンの返済可能額がどうなるか、並べて見せられます。

お客様は、初めて、操作されていない数字を目にすることになります。「あなたの予算は1300万円です」と断定される代わりに、「保険料の前提をこう置けば住宅予算はいくら、ああ置けばいくら」という構造そのものを見ることができます。

Tallyという試み

当事務所では、Tallyという名前のAIアシスタントを構築しています。20年以上のご相談で蓄積したナレッジを、AIに参照させる仕組みです。住宅、住宅ローン、保険、ライフプラン、それぞれの領域でお客様の質問に答え、考える材料を提供します。

Tallyは、保険を売りません。住宅会社を紹介もしません。アフィリエイトリンクもありません。お客様の質問に対して、考え方の整理と、複数のシナリオの提示を行うだけです。

売りたいもののために一切の操作ができません。それどころか、いま誰がAIと対話しているのかすら分からない仕組みです。

お客様が最初に触れる窓口を利害関係のないAIにすることで、信仰が発生しないようにする。それがTallyの設計思想です。

顧客に信仰を持ってほしくて、対面影響力を磨いてきた営業マンにとっては不愉快でしょう。高級スーツに、高級ホテルでの打ち合わせ、高級な手土産、気の利いたお世辞。しかし人生のことを話し合うときに、もうそういうマヤカシはやめませんか?という長岡FP事務所からの提案です。

筆者自身もまた、高級スーツと高級車で営業する外資系保険営業マンだったからこそ、言うのです。

AIにできないこと

FP相談が、AIだけで完結するわけではありません。AIにできないことが、明確に存在します。

それは、お客様自身の人生観に踏み込んだ判断の伴走です。

複数のシナリオが並んでいても、どれを選ぶかは、お客様の価値観の問題です。

「ローコスト住宅で住宅費を抑え、教育費に厚く配分したい」のか、「性能の良い家で長く住み、メンテナンスコストを下げたい」のか。

「保障は厚くしたい」のか、「運用に振りたい」のか。

これらの選択は、たとえ誤っていたとしてもFPが強制するわけにはいきません。

人によって人生の価値観は違います。

AIによる客観的な事実を目の前に置いて、人生の判断とその先のライフプランを話し合うのが人間のFPです。

AIはここに踏み込めません。お客様の人生を想像する知性はAIには搭載されていないからです。AIはあくまでも、言葉を『意味の近さ』で整理された多次元空間へエンベディングし、ベクトルとしての位置関係から文章を作る無機質な仕組みでしかありません。

人生の判断をAIに相談すると、また信仰になってしまう人が現れます。

計算はAIへ、判断は人間へ—FPの新しい存在意義

きっと、FPの仕事、存在意義はTallyのようなAIエージェントで変わります。

独立系FPの未来

AIによて利害関係をゼロにすることが、現実的なゴールではありません。

重要なのは、お客様が判断する材料を、操作されていない形で手にできることです。

そのために、計算と情報提供をAIに渡す。人間は、お客様の人生観に踏み込んだ判断の伴走に集中する。

冒頭のご夫婦は、いまも家を建てられていません。あの場面で、もしお客様の側にAIによる中立的なシナリオ提示があれば、結果は違っていたかもしれません。「あなたの予算は1,300万円です」と断定される代わりに、「保険料の前提を変えれば、住宅予算はこう変わる」という選択肢が、最初から見えていたかもしれません。

営業マンの非言語的な影響力によって、信仰的なバイアスを持たなくて済んだかも。

業界が変わるには、時間がかかります。それでも、ひとつずつ、お客様の手に判断の素材を取り戻していくしかありません。それが、20年以上業界に身を置いて、筆者が辿り着いた答えです。

長岡FP事務所では、AIアシスタント「Tally」を通じて、お客様が判断する材料を提供しています。住宅、住宅ローン、保険、ライフプランに関するご質問は、まずTallyにお試しください。

Tallyは汎用AIではなく、ライフプランと住宅購入の知識を強化したAIエージェントです。

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自分に必要な保険を1分で診断します

ABOUT US
長岡FP事務所代表社員
長岡FP事務所合同会社 代表社員 長岡理知。

RAG型AIエージェント「Tally」開発者。住宅専門FP。インディーハッカー。

2005年プルデンシャル生命に入社。2009年~2011年まで大手ハウスメーカー専属のFPを経験。2011年から数多くのハウスメーカーと提携。2020年に保険会社を退職し長岡FP事務所を開業。

住宅専門FPとして経験は約20年。累計相談件数は5,000世帯超です。住宅購入時の、ハウスメーカー選び、住宅ローン選び、ライフプランニング、生命保険・損害保険の見直しを専門業務としています。

当社のブログは執筆にAI(LLM)を使用していません。

20年の経験をデジタルクローンしたAIエージェント「Tally」を開発・運営。