住宅営業マンが「あなたの30年後」を語れない理由|業界構造が生む限界とリスク

家づくりは、人生で最も大きな買い物のひとつです。そしてハウスメーカーの営業担当者は、多くの場合「本当に良い家を建ててあげたい」という強い善意を持って仕事に臨んでいます。

打ち合わせを重ねるなかで、間取りの提案に真剣に向き合ってくれる担当者の姿を見て、「この人なら信頼できる」と感じたことがある方も多いのではないでしょうか。

しかし、その善意が必ずしもあなたの30年後の安心につながらないという現実があります。

つまり、住宅営業マンは顧客の30年後の人生に真剣に向き合う時間がないのです。

性格が悪いとか、身勝手だとか、営業マンが悪いのではないのです。業界特有の構造的な問題が深く根ざしています。

住宅購入を検討しているすべての方に、ぜひ知っておいていただきたい「業界の裏側」をお伝えします。

営業マンを縛る「パーヘッド」という壁

住宅営業の世界は、契約棟数という厳しい数字の積み上げで成り立っています。

どれほど親身に相談に乗ってくれる担当者であっても、組織の一員である以上、「今月・今期の契約」というプレッシャーから完全に自由になることはできません。

営業の仕事をしている人であれば、十分理解できる話でしょう。

筆者も輸入車ディーラーで営業マンをしてきたので、顧客の生活よりも目先の業績を優先せざるをえない職場環境はよく知っています。

短距離走を強いられる営業現場

会社からの評価は月次・四半期で下されます。

大手住宅メーカーでは、4半期ごと、1年ごとの平均契約棟数(パーヘッドと呼ばれる)で評価されます。

成績のいい営業マンには高額なボーナスが支払われ、年収はゆうに1,000万円、2,000万円を超えることも。

しかし、成績が振るわなければ、上司からのプレッシャーが強まります。家が売れなければ年収はほとんど基本給のまま。コンビニのアルバイト程度の手取り額になることもしばしばです。そのままいけば、最悪は解雇です。

成績が悪い営業マンは、上司から無視されたり、仲間から見下されたり、あからさまにイジメのような屈辱を受けたり、朝礼で同僚の目の前で怒鳴られたりもする、そんな世界です。

これでは、営業マンが今月、来月の販売実績だけを追いかけるようになるのは当然です。

しかし営業マンが取り扱っているのは単なる建物ではありません。35年~40年かけて返済する住宅ローンで買った資産であり負債です。その間には建物のメンテナンスや火災保険、税金、教育費、家族の万が一なども待ち構えています。

正直なところ、その長いタイムスパンに、営業マンは付き合い切れません。というよりも考えることはしません。どうしても、今売れるか売れないかに意識が向いてしまうのです。

分かっているけど、そこまでやる時間はない・・・

住宅営業マンは「建物を売るプロ」です。工法・断熱性能・設備仕様・デザインといった分野においては、豊富な知識と経験を持っています。

しかし、人生を時系列で俯瞰することはあまり仕事として考えられていません。

顧客が住宅購入後の人生を安心して歩むためには、幅広い知識が必要になります。

  • 公的年金の受給額と老後の生活費の試算
  • 住宅ローン控除や固定資産税などの税制知識
  • 子どもの教育費(特に大学進学時)のピーク試算
  • インフレ・金利変動が家計に与える長期的な影響
  • 大規模修繕・設備交換などのメンテナンスコスト
  • 生命保険や火災保険の知識
  • メンテナンススケジュールと正確な予算

家を売るための膨大な業務をこなしながら、これらを精密にアドバイスし続けることは、現実的に不可能です。

分かっているけど、そこまで面倒は見れない、見る時間がない、見るような対価をもらってない、というのが本音です。

家を買ってもらったら、あとは何かあった時に受動的にフォローする、そんな感じです。

家を引き渡したら、次の商談レースが待ち構えている

多くのハウスメーカーでは、営業マンの評価は「引き渡しまで」で完結します。

つまり、家を建てた後の10年・20年・30年にわたる生活について、担当者が積極的にフォローし続けるメリットはほとんどありません。

ハウスメーカーとしても営業マンの時間を、売り上げが発生しないアフターフォローに割きたくありません。そんな時間があったら、新規で家を売るための仕事に向けたいのです。

もちろん、引き渡し後も熱心なお付き合いを続けてくれる担当者もいます。しかし、それはあくまで個人の人柄や職業観によるものであり、組織の仕組みとして保証されているものではありません。

誤解がないように言うと、別に「売りっぱなし」にしたいと思っている営業マンは一人もいません。家を引き渡ししたら、いったん幕引きにしないと仕事が回らないので、仕方ないというのが本音です。

FPを紹介しても、FPすら営業成績に追われている

そこで、一部の住宅メーカーや住宅営業マンが、外部のFPを紹介してくれることがあります。

営業マン自身の知識の不足を補い、お客様のライフプランに対する不安を解消しようと、営業担当者が善意でFP(ファイナンシャルプランナー)を紹介してくれるのです。

FPは住宅メーカーからも顧客からも相談料を受け取りません。住宅営業マンが相談に同席しないのが常識とされています。

ここで、住宅営業マンはロングスパンの相談を外部のFPに委ねることで、顧客に貢献したいという思いがあるのですが・・・

ここにも見落とせない「住宅業界の闇」があります。

ご存じの方も多いかもしれませんが、紹介されるFPの多くは、保険会社や保険代理店に勤務する保険営業マンだという事実です。

FPは住宅に詳しくなく、保険販売に追われている

保険会社や保険代理店に勤める営業マンがFPを自称して相談に乗るのですが、実のところ、ほとんどが住宅について知識がありません。

ライフプランニングに必要な、建物の正確な維持費を計算するための知識がないのです。住宅ローン金利が建材価格の動向にも意見を持っていません。

彼らの目的は生命保険の契約であるため、ライフプランニングはあくまでも保険を売る前提の計算にすぎないのです。

ライフプランのシートを作成し、将来の収支をわかりやすく整理してくれるので頼もしさを感じる人も多いでしょう。

しかし彼らのビジネスモデルは保険の販売手数料で成り立っています。どれほど丁寧なライフプランを作成しても、その先の「解決策の出口」は必然的に偏ります。

保険の販売ありきでライフプランニングをされると、家計収支の計算は大きく歪みます。

あえて言うと、経験不足のFP(保険営業マン)の場合、自分が売りたい保険の予算を確保したいがために、住宅の予算を低くアドバイスすることがあります。家は安くして、老後にお金を貯めましょうという理屈ですが、安い家を買ったらメンテナンスで出費が増えてしまうことには触れません。そこまでの知識もないのです。

筆者も住宅メーカーから依頼を受けてFP相談をすることが非常に多いのですが、保険会社に勤務する営業マンの立場でFP相談会をしていた20年前は、筆者自身もこの罠にはまっていました。保険ありきのFP相談になっていたと今は強く反省しています。

FPにとって自分の収益を横に置いて、まずは真剣に相談者のライフプランに長期にわたって向き合うというのは、相当な相談実務を積んでいなければ、不可能だというのが筆者の経験からくる意見です。

この姿勢を維持するのは保険会社や保険代理店に勤務する保険営業マンには無理だと思います。保険営業マンも住宅営業マンと同様に、目の前の人に、いま、保険を売らなければ仕事が成立しない仕組みだからです。

住宅営業マンから紹介されたFPですら、目先の保険販売に追われている。

それが実情です。

住宅購入後のリアルな現実

人生を30〜40年の時系列で並べると、多くの方が想定していない「支出の山」が見えてきます。

住宅購入後に待ち受ける「3つの支出の山」

【第1の山:築10年前後の建物のメンテナンス】

外壁の塗り替えや屋根の補修、給湯器・エアコンなどの設備交換が重なる時期です。これらをまとめると200〜400万円の出費になることも珍しくありません。住宅ローンの返済がまだ続いている中で、この支出に備えられている家庭は多くはありません。

【第2の山:築20年前後の教育費ピークと建物のメンテナンス】
子どもが大学に進学する時期と重なることが多く、私立大学・一人暮らしの場合は年間200万円を超えることもあります。この時期はローン残高もまだ多く残っており、家計が最も圧迫される時期になりがちです。

さらに2回目の建物のメンテナンスの時期になります。

【第3の山:ローン完済後の老後資金不足と建物の寿命】
35年ローンが完済する頃、多くの方は65歳前後を迎えます。定年退職後も返済が続く人もすくなくありません。

しかしその時点で老後資金が十分に準備できているケースは決して多くありません。「ローンさえ終われば安心」という感覚は、現実には成り立たないことが多いのです。

そしてローコスト住宅を建てた場合は、40年程度で寿命を迎えます。

リアルな現実に対してアドバイスしきれないのが実情

これらの「未来の支出」をリアルに突きつけることは、時に住宅のグレードを下げたり、購入自体を見直すという提案につながります。

数字を追う住宅営業マンにとって、こうした「不都合な真実」を丁寧に紐解くことは、不利益でしかありません。

誠実な担当者であればあるほど、FPに依頼して顧客にとってのベストプランを模索していこうとしますが、そのFPですら保険販売に追われる立場であれば、結局のところ、誰も顧客の人生に向き合っていないということになります。

残念な住宅営業マンもいる

中には、顧客がFPからメンテナンス費用と建物寿命のアドバイスをもらったと聞くと、あからさまに不機嫌になり反論する住宅営業マンもいるほどです。

そんな住宅営業マンの気持ちはこうです。

FPなんかが余計なアドバイスするなよ。

顧客のライフプランに向き合う必要性すら感じない住宅営業マンもいるのです。

「客に知恵を付けさせるな」と筆者に電話をかけてきた怒った住宅営業マンもいるほどです。

本当に選ぶべき住宅メーカーとFPは?

ハウスメーカーの営業担当者も、紹介されるFPも、悪意があるわけではありません。それぞれが自分の役割とビジネスの仕組みの中で、誠実に最善を尽くしています。

問題は「人」ではなく「仕事の構造」にあります。

住宅購入はあなたの人生そのものを左右する大きな決断です。その決断を委ねるのが、目先の契約に動機づけられた人たちだというのが現実です。

大切なのは、

  • 顧客の人生設計に向き合いながら住宅を販売する営業マン
  • 保険販売だけを前提としない、住宅専門のFP事務所(独立系)
  • このふたつの価値を理解している住宅メーカー

この三つです。

簡単に見えて、これは住宅業界ではごく少数の存在です。

住宅専門のFP事務所である長岡FP事務所が、本当におすすめできる住宅メーカーもごく少数です。

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ABOUT US
長岡FP事務所代表社員
長岡FP事務所合同会社 代表社員 長岡理知。

住宅専門FPとして経験は約20年。累計相談件数は5,000世帯超です。住宅購入時の、ハウスメーカー選び、住宅ローン選び、ライフプランニング、生命保険・損害保険の見直しを専門業務としています。 当社のブログは執筆にAI(LLM)を使用していません。