「孤独死」が自分ごとになった今の時代
「自分にもしものことがあった時、誰が手続きをしてくれるのだろうか」。
そんな不安を抱えるおひとりさまや、子どもに迷惑をかけたくないと考える方が増えています。
若いころは考えもしなかったけれど、テレビやネットで孤独死について見かけるたびに、自分もそうなるのだと考えてしまうようです。昔は家族がいたけれど、今は離婚し、子供とも疎遠・・・、一度も結婚したことがなく人付き合いも苦手で天涯孤独の身・・・、日雇いの仕事なのでもし朝職場に行かなくても誰も心配しない・・・
そんな孤立無援状態の人がめずらしくありません。
このような時代を背景にして、いま「死後事務」が注目されています。
これは、亡くなった後に必要となる様々な手続きを生前に信頼できる第三者に依頼しておく仕組みです。
死後事務とは何か?おひとりさまの不安を解消する終活の新しいかたち
死後事務とは、人が亡くなった後に発生する多岐にわたる事務手続きの総称です。
従来は遺族が担うのが一般的でしたが、核家族化や単身世帯の増加により、頼れる身寄りがいない方や、家族に負担をかけたくないと願う方が増え、その担い手を事前に確保しておく必要性が高まっています。
そのための具体的な方法が「死後事務委任契約」です。これは、元気なうちに専門家などと契約を結び、ご自身の死後の手続きを託す法的な約束です。
死後事務で依頼できる具体的な内容
死後事務委任契約で依頼できる内容は非常に幅広く、ご自身の希望に応じて細かく設定することが可能です。たとえば、役所への死亡届の提出や健康保険証の返却といった行政手続きから、電気、ガス、水道などのライフラインや、携帯電話、クレジットカードの解約手続きも含まれます。
また、医療機関や介護施設への費用の精算、親しい友人や関係者への死亡通知、そして希望に沿った形での葬儀や火葬、納骨の手配も重要な支援内容です。近年では、SNSアカウントの削除やパソコンのデータ消去といった「デジタル遺品」の整理も依頼するケースが増えています。大切なペットの新しい飼い主を探すことを依頼することもできます。
確実に実行してもらえるため、もしかしたら家族以上に信頼できるかもしれません。
なぜ死後事務の支援が必要なのか
死後事務の支援が必要とされる理由は、単に手続きの担い手がいないという問題だけではありません。最大のメリットは、ご自身の最後の意思を確実に実現できることです。質素な葬儀を望む、特定の場所に散骨してほしいといった希望を契約内容に盛り込むことで、その実現性が高まります。
また、ご遺族にとっては、悲しみに暮れる中で煩雑な手続きに追われる精神的、物理的な負担が大幅に軽減されます。さらに、病院への入院や施設への入所時に求められる「身元保証人」の役割を、死後事務の受任者が担う契約を結ぶことも可能で、これは身寄りのない方にとって大きな安心材料となります。
国が始める死後事務支援の新制度
こうした社会的なニーズの高まりを受け、厚生労働省は、身寄りのない高齢者などを支援するための新たな制度の創設を検討しています。これは、これまで一部の自治体や社会福祉協議会が任意で行ってきた支援を、法律に基づく事業として全国的に展開することを目指すものです。
2025年の社会福祉法改正を視野に入れており、実現すれば、誰もが必要な支援を受けられる体制が大きく前進します。
厚生労働省が検討する社会福祉法改正のポイント
新制度の大きなポイントは、支援を社会福祉法上の事業として明確に位置づけることです。これにより、全国の市区町村社会福祉協議会が安定した財源と法的根拠を持って、継続的に支援を提供できるようになります。
これまでは担い手不足や予算の問題で支援が手薄だった地域でも、公的なセーフティネットとして機能することが期待されています。
成年後見制度では対応しきれなかった、より柔軟できめ細やかなサポートが可能になる点も大きな特徴です。
新制度で期待されるサポート内容
国が検討している新制度では、大きく分けて三つの支援が柱として考えられています。
一つ目は、日常生活における金銭管理の支援です。預貯金の管理や公共料金の支払い代行など、判断能力が少し低下しても安心して生活を続けられるようサポートします。
二つ目は、入院や施設入所時の身元保証機能です。これにより、身元保証人がいないために必要な医療や介護を受けられないという事態を防ぎます。
そして三つ目が、本人の希望に基づいた葬儀や納骨といった「死後事務」の支援です。これらが一体的に提供されることで、生前から亡くなった後まで、切れ目のない支援が実現します。
全国の自治体で広がる先進的な終活支援の取り組み
国の新制度に先駆けて、多くの自治体や社会福祉協議会は、すでに独自の終活支援や死後事務サポートを開始しています。ここでは、その先進的な事例を紹介します。
【先進事例】福岡市の取り組み
福岡市では、主に社会福祉協議会が中心となり、身寄りのない方や将来に不安を抱える高齢者が安心して生活を続けられるよう、特色ある複数の終活支援事業を展開しています。これらの事業は、個々の状況やニーズに合わせて選択できるよう設計されており、生前のサポートから死後の手続きまでを包括的に支援します。
福岡市社会福祉協議会が運営する「終活サポートセンター」が中心的な役割を担い、市民からの多岐にわたる相談に対応しています。
その中でも代表的な二つの死後事務事業について解説します。
一つ目は「ずーっとあんしん安らか事業」です。この事業は、将来の葬儀や納骨、家財の処分といった死後事務にかかる費用を、あらかじめ「預託金」として社会福祉協議会に預けておく仕組みです。
契約者が亡くなられた際には、その預託金の範囲内で、生前に取り決めた希望に沿って葬儀や各種手続きが執り行われます。まとまった費用を事前に準備できる方向けのプランで、入会金や年会費が必要ですが、希望する葬儀の内容などを比較的柔軟に設計できるのが特徴です。
また、契約後は必要に応じて、書類の預かりや入院時の支援といった生前のサポートも有料で受けることが可能です。対象は主に福岡市内に居住する70歳以上の方で、明確な意思能力があることが前提となります。
もう一つは「やすらかパック事業」という名称の事業です。
こちらは、まとまった預託金を用意するのが難しい方でも利用しやすいよう、保険の仕組みを活用しているのが大きな特徴です。利用者は生前に契約を結び、毎月定額の利用料を支払います。これにより、亡くなった後の直葬や納骨、家財処分、役所への手続きといった基本的な死後事務を、社会福祉協議会が委託した業者が行ってくれます。
利用料は契約時の年齢によって異なりますが、初期費用を抑えて死後の最低限の備えができるため、より多くの方が利用しやすくなっています。ただし、こちらの事業を利用するには、保険会社の審査要件を満たす必要があり、例えば過去の病歴や現在の要介護度によっては契約できない場合があります。また、葬儀は通夜や告別式を行わない直葬が基本となるなど、サービス内容は定型化されています。
これらの事業は、単に死後の手続きを代行するだけではありません。契約を通じて社会福祉協議会とのつながりができることで、定期的な見守りサービスを受けられるようになり、社会的な孤立を防ぐという重要な側面も持っています。
死後事務の準備を始めるには?相談先と費用の目安
しかし自治体の取り組みはこれからの話。
もし、いますぐ準備を始めたいと考えた場合、どこに相談すればよいのでしょうか。
信頼できる相談先はどこか
主な相談先としては、弁護士、司法書士、行政書士といった法律の専門家が挙げられます。また、終活支援を専門に行うNPO法人や一般社団法人、信託銀行なども選択肢となります。
どこに相談すればよいか分からない場合は、まずはお住まいの市区町村の高齢者福祉担当課や、地域包括支援センター、社会福祉協議会といった公的な窓口に問い合わせてみることをお勧めします。
これらの場所では、地域で利用できるサービスや専門機関の情報を提供してくれます。
費用はかかってしまう
死後事務の費用は、依頼する内容や依頼先によって大きく異なりますが、一般的には数十万円から百万円以上となるケースが多いようです。
契約時には、契約書作成費用や着手金が必要となるほか、死後の手続きを実際に執行するための費用として「預託金」を事前に預けるのが一般的です。
国の制度も、民間のサービスも、どうしても事前にまとまったお金が必要になります。お金が潤沢にあったら孤立無援でも困らないのは当然であって、お金が無くて頼る人もいないという立場の人の方が多いはずです。
お金がない、身寄りもない。そういう人が使えるサービスはあるのでしょうか。
葬祭扶助制度について
生活に困窮している人が使える制度として、自治体の葬祭扶助制度があります。
葬祭扶助制度とは、生活保護法に基づいて、経済的な理由で葬儀費用を出すことができない方のために、国が定めた基準の範囲内で自治体が葬儀費用を支給する制度です。
この制度を利用できるのは、主に2つのケースです。
一つは、亡くなったご本人が生活保護を受給しており、遺族がいない、または遺族がいても葬儀を行えない場合です。
もう一つは、葬儀を行う遺族(喪主)自身が生活保護を受けているなど、経済的に困窮していて費用を負担できない場合です。
支給される費用は、通夜や告別式といった儀式的なものを除いた、最もシンプルな「直葬(火葬のみ)」に必要な最低限の費用となります。
具体的には、ご遺体の搬送、安置、火葬、そして骨壺の代金などが含まれます。ただし宗教者を呼ぶことはできず、葬儀はありません。
利用を希望する場合、必ず葬儀や火葬を行う前に、お住まいの市区町村の福祉事務所へ申請する必要があります。費用は自治体から直接、葬儀社へ支払われるため、申請者が一時的に立て替える必要はありません。
この制度は、経済状況にかかわらず、誰もが人間としての尊厳を保ちながら最期を迎えられるようにするための、大切なセーフティネットです。

























