妻の本音は・・・「定年退職までは働けない」では?
「夢のマイホーム」の購入を検討するとき、多くの共働き夫婦が「世帯年収」を基準に資金計画を立てます。特に近年は、ペアローンや収入合算を組むことで、より高額な物件に手が届くようになりました。
しかし、筆者はこの予算決めに深刻なリスクが潜んでいると考えています。
ぺアローンでの住宅購入の裏には、「夫婦ともに、今の収入が定年まで安定して続くはず」という、希望的観測が前提になっているのではないでしょうか。
特に、「妻の収入」を夫と同等に、65歳の定年退職までフルで継続することを前提とした住宅ローン計画は、かなり無理があります。
当社のライフプラン相談では、妻の年収について「何歳まで正規雇用で働きますか?」と質問しています。みなさん一様に「定年退職まで」と答えるので、「本当は?」と問いただすと・・・
「50歳くらいが限界かな・・・」と言うのです。体力的にも精神的にもそのあたりが限界だとどこかで感じているものの、夫婦関係の中で言い出せないというのが現状です。多くの夫は定年退職まで働くことを期待していますが、認識のずれが早くも生じているのです。
この記事では、国の統計データをもとに、なぜ「妻の収入を定年まであてにする」住宅ローン計画が危険なのかを徹底解説します。
これは決して女性が働くことを否定するものではありません。現実的な資金計画を立てる必要性について述べるものです。
「妻も定年まで働く」その前提、本当に大丈夫?データが示す厳しい現実
妻の収入が65歳まで続くと考えているのは、はっきり言って甘い。筆者は相談会で常にそう言っています。
共働き夫婦の住宅ローン計画に潜む「甘い見通し」
住宅金融支援機構の調査によると、住宅ローン利用者のうち、共働き世帯の割合は年々増加傾向にあり、今や主流派となっています。ペアローンや収入合算を利用すれば、一人で借りるよりも多くの金額を借り入れることができ、物件の選択肢も大きく広がります。
しかし、このメリットは諸刃の剣です。
借入額が増えるということは、それだけ長期間にわたり、夫婦双方が返済責任を負うことを意味します。多くの夫婦は、この重い責任を、「夫婦ともに今の会社で、正社員として、定年まで働き続ける」という、甘い見通しの上で受け入れてしまっています。
しかし、この前提は本当に大丈夫でしょうか。
女性のキャリアパスは、男性のそれとは大きく異なるのが現状です。
女性の正規雇用率は65歳でわずか2%
ここで、厳しい現実を示すデータを見てみましょう。
内閣府男女共同参画局が公表している「女性の年齢階級別正規雇用比率」のデータです。

このデータが示すのは、女性の正規雇用比率が年齢とともに急激に減少している点です。65歳時で正規雇用で就労している女性は、わずか2%です。
住宅を買う年齢は30歳前後が最も多いのですが、この年代の女性の正規雇用率は58.7%です。この若い時の感覚で将来のライフプランを決めるのは極めて危険だということが分かります。
男性は女性よりも正規雇用比率が高い
この深刻さは、男性のデータと比較するとより一層鮮明になります。
男性の場合、正規雇用比率は20代後半から50代後半まで、一貫して85%~90%という非常に高い水準で安定しています。
つまり社会全体で見れば、「男性は定年近くまで正規雇用で働き続けるのが多数派」であるのに対し、「女性は年齢とともに正規雇用から離れていくのが多数派」という、歴然とした事実があるのです。
日本社会では依然として男性に有利にできています。女性は定年退職まで働くことが難しい社会のままです。
夫は「妻は働き続ける意欲が高いので大丈夫」と思うかもしれません。もちろん、全ての女性がこのカーブを辿るわけではありません。しかし、このマクロデータが示す差別的な社会構造を無視して、自分だけは大丈夫と考えるのは楽観的すぎます。
ではなぜ女性は正規雇用から離れていくのでしょうか。具体的に見ていきましょう。
女性は、なぜ正規労働から離れていくのか?その理由
理由は簡単です。
長い人生の中で起こる様々なライフイベントが、男性よりも女性のキャリアを犠牲にしやすいからです。繰り返しますが、日本は男性優位社会です。これは誰も否定できないはずです。
具体的なライフイベントを見ていきましょう。
出産・育児によるキャリアチェンジ
最も大きな要因は、出産と育児です。育児休業制度は普及しましたが、本当の壁は職場復帰後にやってきます。
- 時短勤務による収入減 子どもが小さいうちは時短勤務を選択する女性が多数派です。当然、収入はその分減少します。当初は「3歳まで」と考えていても、実際には小学校入学まで延長するケースも少なくありません。
- 「小1の壁」「小4の壁」 学童保育の問題や、子どもが宿題などで親のサポートを必要とするようになるなど、子どもの成長に伴って新たな壁が次々と現れます。その結果、妻が「これ以上、仕事との両立は難しい」と判断し、正社員からパートへ切り替えたり、残業のない部署へ異動したりといった選択を迫られることがあります。
- 第2子・第3子の誕生 子どもが一人増えるごとに、こうしたキャリアへの影響はさらに大きくなります。育休から職場復帰したら半年後に産休に入ったので、同僚に都合が悪く退職したというケースも珍しくありません。
男性の育児休業制度は整いつつあるものの、夫側は自分のキャリアを犠牲にする覚悟は極めて希薄でしょう。しわ寄せは妻にいきます。妻が仕事を辞めることになります。
妻自身の健康問題
30年以上にわたる住宅ローンの返済期間中には、健康状態の変化も考慮しなければなりません。特に女性は、年齢によって特有の健康問題に直面します。
40代以降になると、婦人科系の疾患や更年期障害など、就労に影響するような体調不良を経験することも珍しくありません。うつを発症するケースもあります。ガンなどの大病をすることも少数ではありません。
看護師など高収入を得られる仕事であっても、40代以降の体調の変化で「もう辞めたい」と考える人が非常に多くいます。
子どもの教育や健康状態
子供の進路や健康状態は常に不安定な要素を抱えています。
- 中学受験 当初は考えていなかった中学受験に挑戦することになり、塾への送り迎えなどサポートが必要になる。
- 子供のメンタルの問題 思春期特有のメンタルの乱れから、不登校などに陥る子も少なくありません。そうなると母親がフルタイムで仕事をするのは難しいと感じるはずです。
子どもへのサポートを優先するために、妻が働き方を見直す(収入が減る働き方を選ぶ、仕事を辞める)という決断をすることは十分にあり得ます。
子供が大変な時に自分のキャリアを優先するなんてありえない、と思うでしょう。
自分の親の介護を担う、「実の娘」としての妻
住宅ローンを組む年齢では想像しにくいかもしれませんが、ローン返済が中盤に差し掛かる40代~50代になると、多くの人が「親の介護」という問題に直面します。
女性の場合、実家の母親は「自分の娘に世話をしてもらいたい」と思うようです。
実家の親や、夫の親の介護のために、仕事を辞めざるを得なくなったり、勤務時間を大幅に減らしたりする「介護離職」は、深刻な社会問題となっています。これは、妻の収入が途絶える直接的なリスクです。
筆者も介護離職を経験しました。職場の上司は介護について想像できないのか配慮や理解がなく、仕事との両立は不可能だったのです。男性の筆者でもそうであれば、女性はなおさら退職する方向へ向かうでしょう。
価値観の変化と「自発的な」キャリアダウン
これまでのリスクは、どちらかというと「やむを得ず」キャリアを変えるケースでした。しかし、ポジティブな理由で働き方を変える可能性も忘れてはなりません。
住宅ローンの返済も折り返しを過ぎ、子育ても一段落したとき、「お金のために定年まで馬車馬のように働くのではなく、もっと自分の時間を大切にしたい」と考えるようになるかもしれません。趣味や学び直し、地域貢献活動など、収入以外の豊かさを求めて、自発的にフルタイムの仕事から離れるという選択です。
これは人生を豊かにする素晴らしい決断ですが、住宅ローン計画の観点からは「収入減」というリスク要因となります。
また、仕事とお金に対する価値観が夫婦で乖離していくことも多々あります。妻には定年まで働いてもらってお金を貯めたいと思う夫と、生活レベルを下げてでも自分らしく生きたいと考える妻と、価値観が離れていく光景はよく見ます。
ぺアローンを利用する夫婦の、現実的な返済計画
では、これらのリスクを踏まえた上で、共働き夫婦はどのように住宅ローンを計画すればよいのでしょうか。重要なのは、希望的観測を捨て、現実的なリスク管理を計画に組み込むことです。
夫の収入だけで返済可能な範囲で借りる
最も安全で、理想的な戦略はこれです。「住宅ローンは、夫(あるいは収入が安定している方)一人の収入で、無理なく返済できる金額に収める」という考え方です。
この場合、妻の収入は「聖域(サンクチュアリ)」として扱います。つまり、ローンの毎月返済には組み込まず、以下のような「家計のブースター」として活用するのです。
- 繰り上げ返済の原資
- 教育費・老後資金の貯蓄
- 生活のゆとり・急な出費への備え
この戦略をとれば、万が一、妻がキャリアチェンジを余儀なくされたり、自ら働き方を変えたりしても、住宅ローンの返済計画が根底から揺らぐことはありません。精神的な安心感が全く違います。
ただし、夫の収入だけで借りられる住宅ローンは上限があります。夫の年収によっては満足のいく物件を買えないケースが多いかもしれません。
収入合算する場合の鉄則:「妻の収入は7割」でシミュレーションする
物件価格が高騰している都心部などでは、夫一人の収入だけでは希望の物件に届かないケースも多いでしょう。どうしても収入合算やペアローンを組む必要がある場合は、リスクを軽減するための「鉄則」を守りましょう。
それは、「ライフプランニングの際に、妻の収入を額面通りではなく、7割程度に割り引いて計算する」というものです。例えば、妻の年収が400万円なら、ローン計画上は280万円として計算します。
なぜ7割なのか?これは、将来の時短勤務やパート勤務への移行による収入減をあらかじめ想定した「バッファ(ゆとり)」です。もちろん、フルタイムで働き続けられれば、残りの3割分は繰り上げ返済や貯蓄に回せます。最悪の事態を想定して計画を立てることで、家計の柔軟性を保つことができるのです。
ペアローンを組む場合も同様に、夫婦の借入額の比率を工夫しましょう。例えば、世帯年収が同じでも、夫:妻=7:3のように、妻側の借入額を意図的に少なく設定するのも有効なリスクヘッジです。
団信(団体信用生命保険)について真剣に考える
住宅ローンにおける最大のリスクは、返済者の死亡または高度障害です。このリスクに備えるのが「団体信用生命保険(団信)」ですが、共働き夫婦の場合は、この団信の入り方にも戦略が必要です。
- ペアローンの場合 夫も妻も、それぞれが自身の借入額に対する団信に加入します。万が一、妻が亡くなった場合、妻のローン残債は保険で完済されますが、夫のローンはそのまま残ります。
- 収入合算(連帯保証)の場合 主債務者である夫しか団信に加入できないのが一般的です。この場合、妻が亡くなってもローンは全額残り、夫が一人で返済を続けなければなりません。別途、生命保険で備える必要があります。
- 夫婦連生団信 夫婦のどちらかに万一のことがあった場合に、ローン残債全額がゼロになる団信です。保険料が上乗せされることが多いですが、非常に手厚い保障です。
さらに、近年は「がん保障」「3大疾病保障」「8大疾病保障」「それらの連生タイプ」など、特定の病気になった場合にローンが免除される疾病保障付き団信も充実しています。先に述べた妻の健康リスクに備える意味でも、こうした保障を手厚くすることを検討する価値は十分にあります。
「理論上返せる額」ではなく「必ず返せる額」を見極める
金融機関は「これだけ借りられますよ」という「借入可能額」を提示してくれます。
FPも「理論上、返済できる額」、つまり机上論で返済できる予算を伝えてきます。
これはあくまでもファンタジーの数字と思ってください。「借りられる額」と「無理なく返せる額」は全く違うということを肝に銘じてください。
そして「理論上返せる額」と「必ず返せる額」も大きく違います。
大切なのは、自分たちの家計の実態に基づいたキャッシュフロー表を住宅専門FPに作成してもらい、確実な返済可能額を見極めることです。

まとめ
この記事では、公的なデータをもとに、住宅ローン計画において妻の収入を定年まであてにすることの危険性を解説してきました。
女性の正規雇用比率が年齢とともに低下する「L字カーブ」は、多くの女性がライフイベントの影響でキャリアチェンジを余儀なくされている、あるいは選択しているという、紛れもない社会の現実を映し出しています。
繰り返しますが、これは女性が働くことを否定したり、その能力を低く見積もったりするものでは決してありません。男性優位社会である日本の抱える問題が、住宅ローンの返済計画に直接的な影響を与えているということです。
住宅が高騰しているいま、住宅購入時は住宅専門FP事務所への相談が欠かせません。しかし多くの工務店や住宅営業マンは、自分の話術だけで契約させようとします。売れたらそれでいいのです。返済できるかどうかは営業マンは興味がありません。
住宅専門FPを紹介してくれる住宅営業マンを選ぶことも大切です。もし紹介されない場合は、当社の相談をぜひ活用してください。




























